第4話 女性戦士に会うなんて、ついてない!

・女性戦士に会うなんて、ついてない!


「なあ、あんた、大丈夫かい? さっきからずっとボーッとしてるぜ?」

女性の声で、ハッと我に返った。

女性はメタリックカラーピンク色の鎧を着ており、背が高い。彼女はジーっと俺の顔を覗き込む。

鎧は上半身はところどころ、隙間があるようにも見える。下半身部分は、どういうわけか、まるで水着のようだ。機動性を重視しているのだろうか。

「あ、ああ。大丈夫です」

 その女性は俺の顔を穴が空きそうなほどに見つめて、ふふん、と鼻を鳴らした。

「そっか。あたいは戦士、ラル・メルクリンだ! ラルって呼んでくんな! もっと気楽にしゃべりなよ! で、あんたの名前は?」

 ラルと名乗る女性戦士は人懐っこい笑顔を浮かべている。グイグイ来るタイプのようだ。

 年はたぶん、俺より少し上ってところだろうか。メリハリの利いた体格をしている。

 つまり、その、胸とかお尻とかが、豊かなんだ。うん。おっとあまりジッと見ていて斬られでもしたら大変だ。

「……俺は、神木、ジンゴロウ」

「へえ! ジンゴロウ! 変わった名前だな! で、ジンゴロウはあたいのこと、知ってるかい?」

 ラルは胸に手をやり、話し方から推測するに、自分にかなり自信のある女性という印象を受ける。

「いや……知らないけど」

 知るわけがない。だって俺は異世界に来てまだ十分くらいなのだから。

「そっか! じゃあ、教えてやるよ! あたいはアンタッチャブルナイトの異名をとる、女戦士さ! あ、アンタッチャブルってのは、触れることができないって意味さ! 魔王討伐で有名な、伝説の勇者アナシーの……」

 伝説の勇者? 魔王討伐? ひょっとしてこのラルと名乗る女性戦士、有名人なのか?

「えっ、まさか、その仲間とか?」

「いや、伝説の勇者アナシーの生まれた家の隣の家の娘、それがあたいさ!」

「それって赤の他人なのでは……」

「いやいやいや、伝説の勇者アナシーの兄弟のいとこの隣のお兄さんが、あたいの父さんなんだから、関係大ありさ!」

 やっぱり他人じゃん、と思ったが、ラルの圧がすごいので、言うのはやめておこう。

「はあ、そうなんだ」

「そうさ! わかってくれたようで、うれしいよ! あたい、あんたのこと気に入ったよ! なんだか普通の男とは違うオーラみたいなものがあるよ!」

 不幸のオーラみたいなものか?

「見たところ、この町に来たばっかりってところだね。よっしゃ、分かんないことあったら、なんでも聞いてくんな!」

 ラルは前のめりに、ぐいぐいと迫ってくる。

「あ……いえ、その……」

 圧がすごくて、話しづらいな。

でも、待てよ。このラルって人にいろいろとこの世界のことを聞いておけば、この先有利かもしれないな。よし。

「あー、助かる。この世界……じゃなかった。えっと、田舎から出てきたばっかりで全然わからないことばかりなもんで、教えてくれると助かる」

「そうだと思った! よし! あたいにまかせときな!」


 こうして俺はラルと名乗る女性戦士とともに行動を共にすることになったんだ。


 ラルは親切にこの町(と異世界)のことを俺に教えてくれた。

 この町が、この世界では割と大きな王国の城下町だということ。

王国の名前はクスキで、町の名前はダバラということ。

 現在、クスキ王国では、城の改修工事をしているということ。どうやらさっきの巨獣グルーガンが運んでいたのが、そのお城の一部である塔の部分らしい。

 

 そんな話をしながら、俺とラルはぶらぶらとダバラの町を歩いていた。

 ダバラの町は城下町ということもあり、多くの住宅と商店があるようだ。

俺たちがいま歩いているのは、城下町ダバラのメインストリートである中央市場らしい。広い大通りを挟んで、道の両側にはぎっしりと商店が軒を連ねている。

どの店も、店頭に「これでもか!」と言わんばかりに商品を並べている。果物屋らしき店には、見たことがないフルーツがぎっしり。武器屋らしき店には武器がぎっしりだ。

どこもかしこも人であふれかえり、活況を呈している。

 その時、ふと変わった店が目にとまった。この市場の中では珍しくガラス張りの店構えだ。ガラス窓から見える店内には、小さな小瓶がポツポツと数本だけ並んでいるのが見える。

 雑多な店構えが多い中、その店のたたずまいには、高級感があった。

「ええっと、ラル、さん?」

「ラルでいいって! ジンゴロウ!」

「わかった。なぁラル。あの店は何?」

「ああ、あれか! あれは田舎にはない店だな! ずばり、召喚獣の店「カトレア」だ! よっしゃ、いっちょ入ってみるか!」

「ええ? 召喚獣?」

 ラルは戸惑う俺の手を引いて、高級感あふれる店内へとずかずかと入っていく。


 カトレアという名の店内に入ると、より一層の高級感に包まれていた。3名いる販売員らしき人は、みな若い女性でオシャレな雰囲気だ。

 そうかと思うと、奥の方には筋肉ムキムキの、いかにも武闘家という風貌のマッチョな男性が両腕を組んで立っている。この店のガードマン兼用心棒なのだろうか?


 この異世界のことを知らない俺でも、ここが俺には場違いなほどの高級店だということがひしひしと伝わってくる。

 それなのに、ラルはスタスタと店内最奥部へと進んでいく。

「百聞は一見に如かず、さ」

 ラルはニヤリと笑うと、いかにも高級そうな陳列台に展示してあった小瓶を、ひょいと手に取った。

その瞬間、販売員さんや、マッチョの男性がピクッと動いた。

何も知らない俺でもわかる。たぶんそれは超高級で、そんなに雑に扱っちゃいけない小瓶なのだろう。

「コレ、この中に、召喚獣が封印してあるのさ。えっと、こいつは、ラベルには、バハムートって書いてあるな」

「バハムート? って、まさかあの、ドラゴン?」

 バハムートなら、ゲームで俺も見たことがある。

「そうさ! よく知ってるじゃん」

「こんな小瓶に入ってるのか? バハムートってでっかいんじゃないのか?」

「ふふふ、あたいも専門じゃないから詳しくないけど、すんごい魔法使いになると、こういう小瓶にでっかい召喚獣も封印できるらしいのさ」

「封印? ってことは、出したら暴れるのか?」

「そうだな。例えば乱暴に壊したりしたら、暴れて大惨事になるな」

 ラルはバハムートの入っているという小瓶をプラプラと軽くふる。ガードマンが徐々に近づいてくるのが視界の隅で見えた。

「大変じゃないか! 早く棚に戻してくれ!」

「大丈夫だって。この小瓶にも強化魔法がかけられているから、ちょっとやそっとの衝撃じゃあ、壊れやしない。それに、ちゃんと手順を踏んでから開封して召喚すれば、開封者の言うことをきちんと聞いてくれる! ……らしいぞ」

「やったことないのか?」

「ない!」

 胸を張るな、胸を。目のやり場に困る。

ラルはのけぞりそうなほどに胸を張っている。ピンクのメタリックな鎧越しにも、その強調されたグラマラスな胸が目にまぶしい。

おまけにおへそより下は露出部分が多い、動きやすそうなデザインの鎧なのだから、なおさら目のやり場に困る。

「おまけにこういうのは、すんごく高いんだ。超お金持ちにしか買えないモノさ。このバハムートの小瓶は、ええっと、おっと、普通の町人の一生の稼ぎとおなじくらいの値段だな」

 それって円で言うと、二億円くらいなのだろうか。恐ろしい値段だ。

 待てよ、もし俺もこの世界で召喚獣をそんな風に小瓶に入れることができれば、それを売って大儲けできるのではないだろうか。

 どんなについていない俺でも、この異世界で大金持ちになれば、幸せに生きていけるかもしれない。

「まあ、こんな風に召喚獣の小瓶を作れるのは、世界に数人しかいないし、それも命がけだけどね。だから高いのさ」

 命がけか、そりゃ無理だ。不幸な俺なら、すぐに死んでしまいそうだ。

「他にも、いろいろあるな。大地の巨人ゴーレムやら、炎の魔人イフリート、とか、まだまだあるな」

「も、もういい、分かったって」

 こんな買えもしない高級なものに囲まれていると、気分が落ち着かない。

「ま、こんな感じ。さ、出ようぜ」

 ラルはそう言うと、小瓶を無造作に棚に戻し、ずかずかと「カトレア」から出て行った。俺も慌ててついていく。

マッチョの視線が痛い。

 トホホ。

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