第9話


 あとがき。


 この物語を作ったのは蛯名 蝶。この本を書いたのは蝶の従姉である私、伊野尾 爽風です。

 

「蝶の従姉」と言っても血は繋がっていません。例の蝶の母親の再婚相手、鮱名 雅紀は私の叔父に当たります。

 だから、蝶と初めて出会ったのは、蝶が11歳の時。

 去年のお正月でした。

 当時の私(14歳)には友達もいませんでしたし、親戚に女性も殆どいませんでした。だから、血が繋がっていないとはいえ、「年が近い女の従妹が出来る」。本当に嬉しかったですし、初日だけで少なくとも5時間喋り通していました。

 従妹への第一印象は「内気な子」でした。でも、話し始めると、本当にお喋りで溌剌とした子でした。全然違いました(笑)

 そんな中、蝶は自分が作った物語を語り初めて……。

 

 今年のお正月に会った時、あの〆を聞かされました。「完結した」という感じではありませんでしたが、その時に蝶は言っていました。

「いつか大きくなったら、この物語を小説にしてみたい」と。

 そう聞いた時、口先では「出たら買うね」とは言ったものの、買う気はありませんでした。

 まさか、彼女が作った物語を、そんな私が書き起こすことになるとは。



 今年のお盆。

 私は(ようやく出来た)友達と旅行に行っていました。お盆も含む、1週間。

 そんな楽しい旅行の最中、ツリターを見ると、「蛯名 蝶という子が、家に監禁され熱中症で亡くなった。近隣住民から異臭がする、という通報を受け発見された」というニュースが。泣くでも叫ぶでもなく、放心しました。

 旅行が終わり、家に帰ると衝動的にパソコンに向かい、小説を書き始めました。

 どうしようもなく叫びたかった。だから、蝶が遺した物語を活字に起こしました。

 夏休みだったこともあり、3日で書き終わり、両親からの勧めで出版しました。


 従妹が作った物語が出版されることで、「蛯名 蝶が生きていた」ということが忘れられませんように。



 ***


 爽風は頬杖をついた。


 薄っぺらい。もう少し他に何か言いたかったことがあった気がするけど、忘れちゃった。


 壁を蹴ると、爽風が座ってたタイヤ付きチェアが後ろに進んだ。


 中間テストは終わった。もうしばらく何も考えたくない。けど、考えないと。特に将来のこと。しばらくはマスコミ対応もあるだろうし。

 お母さんはずっと私を自慢している。

 そりゃそうだ。だって書かなかったら、お父さんは「犯罪者の弟」のままだった、仕事に傷がつく。お母さんは今回の印税を使って私をいい大学に通わせたいらしい、いい家庭教師をつけたいらしい。

 私は何がしたかったんだろう?蝶がこの物語に込めたテーマは何だったんだろう?


 窓の外を見た。


 サヤサヤと風が葉っぱを通り抜けている、というわけじゃない。だって秋だから、気持ちの悪い暑さがまだ少し残っている。

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