第14話

 ボロボロのパイプを持ってダンジョンの中を歩くご主人……その後ろでプラカードを掲げながらついていく僕。

 どちらが主人なのか、わからないような状況の中。

 初配信が進んでいく。


「ご、ゴブリンです……ッ!た、戦います!」

 

 ダンジョンを徘徊する一匹のゴブリンを視界に捉えたご主人が声に緊張を滲ませながら口を開く。


『緊張しすぎないで。体が強張っていたら動けるものも動けないから』


「はい……ッ!」


『それじゃあ、勝ってこい』


「はい!いきます!」

 

 僕の言葉に頷いたご主人がとたとたと、なんか力が抜けるようなどこか緩い雰囲気の走りでゴブリンの方へと近づいていく。


「はぁ!」

 

 かわいらしい声と共にパイプをゴブリンへと


「ぎゃぎゃ!」

 

 それをゴブリンは自分の手にある木の棍棒ではじき返す。


「ぎゃぎゃ!」

 

 そして、木の棍棒で思いっきりご主人へと叩きに行く。


「こ、この……ッ!」

 

 ご主人はなんとかその一撃を回避して再びパイプを振るう。


「……ぷぎぃ」

 

 必死に戦うご主人とゴブリンの戦闘を見ながら僕は力を抜く……必死に戦っているところ悪いんだが、レベルが低すぎて子供のチャンバラにしか見えない。

 

「ぷぎぃ!」

 

 いつまでもゴブリンと泥沼の戦いを繰り広げるご主人に業を煮やした僕は鳴き声を上げてプラカードを掲げる。


『ナイフを忘れずに!』


「あっ……」

 

 すっかりと忘れていたナイフの存在を思い出したご主人は慌ててナイフを左手で取り出して、ゴブリンへと突き刺す。


「ぎゃぎゃ!?」

 

 ゴブリンの知能は低い……まごつきながらではあったが、それでもいきなり出してきたナイフに反応出来なかったゴブリンは何も出来ずに刺される。

 だが、錆びつきに錆びついたナイフでは致命傷と言えるまでの傷を負わせることが出来ない。


「えい!えい!えい!」

 

 だが、それでもナイフのおかげでゴブリンの動きを鈍らせることには成功する。

 その隙を狙ってご主人は何度もナイフとパイプを振るう。


「ぐ、ぐぎゃ……」

 

 一分もすればゴブリンの動きは鈍くなり、とうとうご主人がゴブリンを一体倒す。


「ふぅー」

 

 深々と息を吐いたご主人はゴブリンの遺体から魔石を抜き取ってそれを大事そうに仕舞う。


「よし!一体のゴブリンを倒せた!これで夕食分!今日の探索はこれで終わり、かな……?って、あっ……は、配信の方があるんだった。きょ、今日の配信はこれで終わりでしゅ……あ、ありがとうございました」


「ぷぎぃ……?」

 

 そして、それに続いて放たれた満足げなご主人の言葉を聞き、僕は思わず呆然と声を漏らした。


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