第3話
少女の胸に抱かれてそのまま進む僕は何の問題もなくダンジョンの出入り口であるやけに装飾の豪華な門を超え、そのまま日本の町並みへと繰り出した。
僕の確認は簡単……まだ経験の浅い少女が連れてきたスライムなど取るに足らない。
そう判断した探索者を管理するダンジョン省の人間は僕がテイムされているかどうかの確認を実に簡略化して済ませた。
「ぷぎぃ」
普通に脅威たる僕をこの日本で野放しにしたのだ……本来魔物のテイムの基本である人間と魔物の心をつなぐ糸、契約が交わされていないのにも関わらず放置したのだ。
案外ダンジョン省はザルだった。
元市民としては不安になるが……スライムとなった今の僕であれば関係ない話である。
「私の家は……もうちょい先だから待ってね」
少女は小さな声で僕に囁き、歩を進めていく。
そんな中、僕は『日本』を眺める……うん。僕の知る日本だ。極端に時間が進んでいない。
僕が死んで、スライムとなるまでの過程のなかでそこまで長い時間は経っていないようだった。
「……ぷぎぃ」
ただ。
一つ思うところがあるのだとしたら、少女の向かう先であった。
「……ついたよ」
豊かさが広がる日本の奥の奥……回復しつつあるものの、それでも日本に未だ救うだけの力がなく、放ったらかしにされている日本の掃き溜め。
世界を揺るがすほどの『力』もなく、豊かな生活を送るのに必要なお金も持っていない人たちが集まる、スラムよりも更に下層の世界。
日本の闇、貧民街……その一角。
「ここが私の家」
貧民街の中ではまだマシな方の場所に建てられた一つの一軒家。
元々はアパートだったのだろうが、老朽化によって崩れ、とうとう過ごせる部屋が一つしかなくなってしまっているようなアパートのような一軒家の前に立った少女が僕にここが私の家であると告げる。
「ぷぎぃ」
なるほど。
少女は貧民街の人間……信じられないほどの貧乏人だったというわけか。
「ちょっと狭いけど……許してね?」
「ぷぎぃ!」
僕は少女の言葉に対して元気よく鳴き声を返す。
理想は……僕の理想は金もあって人気もある美しい女性のペットとなることだ。
スライムとなった今の僕の理想はそれだ。
別に今、少女が貧乏人であっても構わない。ただ、必ず僕の手でこの少女を金持ちにし、僕の理想の飼い主にする。
「ぷぎぃ」
それがスライムとなった僕の物語の第一章だ。
ラノベ作家らしく、僕は己の人生を物語のように定義し、歩み始める。
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