雛祭り

橘しずる

第1話

 この作品は創作であります

 さて、雛祭りと聞いて、何をイメージするだろうか

 

 都会から離れていく電車に揺られ

 里帰りをする……山あいにある村が私の故郷だ

「幼い頃、村を出てから、音沙汰なしにしていたからなぁ……ん……誰から私の勤め先を聞いたんだろう?」

 私は車窓からの景色を見つめていた

 

「従兄妹が結婚をするから、帰ってこい」 

 私の実家を継いだ伯父から先日、会社に連絡があった

 私は仕事が忙しいと2日ほど遅れて、連絡をした

「おめでとうございます。雛祭りに結婚式するなんて、洒落ているね」

 電話口の伯父は「そうだな……いつ帰って来る?」

 何処か歯切れが悪い口調だった……

 私は今週末には帰郷すると返事をした

 

 最寄り駅に到着し、深呼吸をする

 一時間ほどしたらバスが来るので、駅付近を歩くことにした

 駅を離れたところにコンビニを見つけた

 さりげに入る

「あれ……Mじゃないか」

 Mは私の事……背後から声を掛けられ振り返る

「…………………???……kか?」

 私はどんな表情をしていたのだろうか

 kは幼い頃に、よく遊んだ……仲良しだった

「忘れたか?呆けた顔をして……」 

 懐かしい笑顔があった

「本家に行くのか?」 

「あぁ、従兄妹が結婚するって聞いてさ」

「従兄妹?……当主の娘さんの結婚か?」

「そうだよ……」 

 kは首をかしげる

「k?どうした?」 

 なんでもないと、コンビニ内にある喫茶室に案内した

 バスが来るまで、昔語りをして過ごした

 コンビニを出る時にkが「泊まるなら、分家に世話になれよ……」と言った

 

「よう戻った!さぁ中へ」 

 出迎えたのは、伯父だ……

「姉さんは元気か?離婚して、Mを一人で育てていたからな……今はどうしている」 

 部屋に案内しながら、尋ねてきた

「母は昨年、病気で亡くなりました……ハガキを送ったはずですが?」 

 伯父はパタリと足を止めて、僕を見た

「……………そうか……。ハガキを見んなんだ……家の者が処分したんだろう」 

 広い和室に案内され、荷物を下ろす

「なんだか……お祝いの雰囲気じゃないな……どうして、ハガキを処分するんだ?」

 私は本家の話を、母がしなかったのを思い出した

 子供頃に両親は離婚している……幼い頃なので、父親の事はよくわからない

 母は離婚理由を教えずに逝ってしまった……考えていると襖が開いた

「ごめんください🙇お茶をお持ちしました」 

 本家の家政婦さんがきた

「ありがとうございます」

 私は一服することにした

 

 朝からバタバタしてる

 昨日の家政婦さんが紋付き羽織袴を持ってきた

「こちらに着替えて下さい……お手伝いいたします」 

 私は着慣れない紋付きに手間取った

「これより、両家の顔合わせの食事会です」 

 私はん〜ん?と首をかしげる

 家政婦さんは着ていた浴衣と布団を片付けている

「失礼いたします……間もなく、旦那様がいらっしゃいます」

  

 伯父に連れられ、大広間に入った

 両家の食事会のイメージとはかけ離れた……

 何と言うか、横溝正史の世界が展開されている

  上座に屏風があり、その前に……雛人形?

 祝膳が2つ……新郎と新婦は何処にいるんだ?

 私の席は伯父の隣……新婦側に座る

「伯父さん、従兄妹は?」 

「ん……新婦席にいるだろう」

「雛人形が飾りつけてある……」

  と言いかけた時に、周囲の冷たい視線を感じた

  粛々と食事会が行われ、

  宴会になったが祝膳の料理の味も酒の味もわからない

  私は上座にいる雛人形に見られている感じがし

  背筋が寒くなっていた

  一族が集まっての食事会だったが……しんみりし過ぎだ

  


「イヤイヤ、明日の結婚式が楽しみ……イヤ、失礼

  厳粛なものになりそうですな……」

 参加者の一人が言った

  私からすれば、結婚式からはほど遠い感じだと思う

  それに本家とあまり関わりがない私を招待したのか?

「なんだろう?上座からの視線は?

   それに屏風の後ろになんかあるぞ……」

  

  宴も終わり……招待客が帰る中

「M君、良ければ私の家に行かないかい」と

 kの身内の者が声をかける

「ありがとうございます……だけど……」

 私は躊躇する……

「伯父さんには、わしから話しておくから、

  着替えて、荷物をまとめなさい」

「はぁ……」

「kと昔語りをすると良い……それに……

  なに、明日の段取りを話さにゃいかんからな」


  部屋に戻り身支度をしていると、

  襖が音も無く開いた

「ん?寒……」

  ひんやりとした風が部屋に入り込む 

「閉めたはず……」

 ピシャリと閉め、荷物をまとめた

「行くか……伯父さんに挨拶しないと……ん?!」

 振り向いた先に、新婦の席にいたお雛様がいた

「誰か置いたの?」

 廊下を見渡した……誰もいない

 とにかく、私はkの身内の待つ玄関に向かった

「ヒッ!」

 お雛様が私の方を見ていた……私は身震いを一つ

 足早に部屋を出た

「それじゃ……伯父さん、明日」

 お雛様の話をしょうかと思ったが、やめた……

 この家の誰かの仕業かもしれない……

 

 kの身内……叔父さんは私の母の従兄妹になる

「M君、君の母親には気の毒な事をしたね。本家は君達親子の居所を探していたんだよ。母親が昨年、亡くなったとは……

 」

「何故、伯父さんは知らないと……ハガキを送ったはずなんですが……」

「すまん……本家には知らせなんだ。M君と君の母を巻き込みたくなかったからな……本家の娘は病気で亡くなった。今日の食事会は……その……M君、明日、君は亡くなった娘……従兄妹の夫になってしまうんだ。」

 私が亡くなった従兄妹の夫?

「叔父さん……よくわからないですが」

「死者の結婚式なんだよ……M君。村の因習だよ……男雛は君なんだよ。」

「村の因習……死者と結婚する事がですか?」

 私は血の気がひいた

「君の母親は、若くして亡くなった本家の跡継ぎの女雛にさせられそうになってな……恋人と何処に姿を消してしまったんだよ」

「……だから、母は村の事を教えてくれなかったんだ」

 叔父は、私に明日の早朝に帰るように言った

 村の因習はすでに廃れており、一部の村民が若くして亡くなった死者の供養に行うと語った……女雛、男雛にされた人間は、何度目かの雛祭りまでは死者と共に暮らさなくてはいけないそうだ……その間に、連れて逝かれる事もあるという

「M君、二度と此処には来るな……関わっちゃいかんぞ」

 私は早朝にkの車で、隣町の駅まで送ってもらった

「すまんな、k……巻き込んだみたいだ」

「大丈夫さ……本家はお前を探すだろうから……仕事も住まいも変えとけよ」

「わかった……ありがとう」

 私は都会に戻った……


 後日、kの従兄妹のOに職場で会った

 Oは取引先の社員だった

「M、転職しないのか?」

「今度、転勤するんだ……実家も処分するよ」

「そうか……kが心配してさ、こっちに連絡があったんだよ」

「なぁ……僕がいなくなってから、どうしたんだろう?」

「kの叔父さんがさ……なんでも供養したい男雛を紹介したらしいよ。」

「じゃ……終わったんだな」

「どうかな?M、気をつけろよ」

私は都会に戻ってから、本家の従兄妹が夢枕に立つようになっていた…いつか、連れて逝かれるのだろう。









 



 

 

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雛祭り 橘しずる @yasuyoida

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