10.万華鏡
変わらぬ日常と言うものは良いものだ。
いや、変わらぬと言ったところで、全く同じ日などあろうはずが無い。
別に哲学を気取り、語るわけではないが。
砂漠のただ中で地図も方位石も失い、雲の形のみを見続け、傍から見ると日々変わらぬ時間を過ごしていたことがある。
そんな命の危機に瀕した時でさえ本当に、昨日と同じ今日、今日と同じ明日はあり得ぬと思っていた。
「さて、と…」
クレアの前には三叉路。
その手前でクレアは腕組みをしながら考えた。
「どこを通ろうかな」
クレアは小さな紙飛行機を折った。
その紙飛行機を真上に飛ばす。
落ちたところの道を行こう。
自分には、この根無し草生活が似合っている…
風のない穏やかな空の下。
クレアは紙飛行機を飛ばした……
そうして、途中立ち寄った小さな町で、行商人に魔獣に襲われる恐れがあるから護衛をして欲しいと頼まれ共に歩いている。
この行商人の行く都市でも、先の都市のように大々的な剣の大会でもあってくれれば、幾らか金子を稼ぐことができるのだが…
いや、それより今のこの仕事だ。
魔獣や夜盗など出なければ良いのだが。
そういう思いで山道を歩いて行いると、どこかで酷く不気味な唸り声が多数聞こえる。
クレアは行商人たちに隠れるよう指示し大剣を構える。
が、大型の魔獣が10体以上だ。予想以上に多い。
仕留めきれるだろうか…
と一瞬眉をひそめた時に、
「加勢しろ!」
という声が聞こえた。
聞き覚えがある声だ……
またたくまに馬に乗った兵士たちが駆け付け、クレアとともに魔獣を制圧していく。
肩で息をしながらすべて倒し切ったのを確認し、先ほどの声の主を探す
「あ…」
凝視したクレアの視線に気付いたらしいその人物もクレアへと目を向け、そして、ニヤリと笑う。
何故ここに居るのか、という疑問は確かにあった。
「…近頃、この界隈で魔獣の被害が出ているという申告がありましてね、見回っておりました」
「そうしたらば囲まれている貴女が見えまして…さすがに貴女がお強くてもお一人よりは、我らもいた方が良いかと」
いつか見た副団長二人が説明をしてくれる。
が、クレアの目は緑の髪の人物に向いたままだった。
あの傭兵団長は自分でも予想していた以上にクレアの心に侵食してきていたらしい。
我知らず、クレアは表情を崩し微笑む。
女であることを捨てた、と言っていたはずのクレアのその微笑みは咲き誇る花のように可憐であった…
判で押したように繰り返される日常。
変わらぬ日常とはいえ、日々、刻刻と変化をしていくものだ。
その変化の中で訪れる、予期せぬ出来事というものもあるものだ。
「よぉ、また会ったな」
これが二人の二の出会い。
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最終話ですが、オマケ話も投稿しました
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