03.日がな一日

草を踏む音が耳に入った。

頬を撫でて行く風が冷たさを含んでいることから、日が翳ったのだ、ということがわかった。


◇◇◇◇◇◇


何故、私の目のつくところばかりに現れるのだろう。


クレアは首をひねった。

ザインが日当たりの良い土手の草むらで昼寝をしているのだ。

別に向こうとしては、クレアの方が行く先々に現れるのだ、と言うのであろう。


まるで、保護色だな。


そう思いつつ、しばらくの間、わずかに離れた所からその姿を眺めていた。

無防備だ、と思ったが、それ以上近寄ろうとは思わなかった。

おそらくこれ以上側に寄ると目を覚ますであろう。

戯れにでもソードに手をかけでもしたら、一瞬のうちに自分の首元へあの刃を付きつけてくるだろうことは容易にうかがえる。


まぁ良い。寝ているものを邪魔する理由もない。


クレアはそれ以上ザインを眺めることなく、スタスタと歩き去った。



日が傾いた頃。

再び同じ場所を通ったクレアは、また、足を止めた。


…まさか、あれからずっとここに…?


寸分違わぬ所に、ザインは眠っていた。

クレアはため息一つついて、草を踏み、ザインに歩み寄って行った。


「そんなところで寝ていると、いい加減、風邪をひきます」


◇◇◇◇◇◇



心配しているのか、いないのか、うかがい知れないような声がかけられた。

草を踏む音が耳に入り、頬を撫でて行く風が冷たさを含んでいることから、

日が翳ったのだ、ということがわかった。

目を開けると、わずかに離れたところにクレアが立っていた。


「先日は、どうも」


どうも、というのは、どういった意味なのかはわからなかったが、

何となく礼を述べているように聞こえた。


「ああ」


ザインも気のない返事をする。


「ずっとここで寝ていたのですか?」


その問いで、先にもここを通ったのだということがわかった。

ザインは、伸びをしながら、いや…まぁな、そうだな、と答えた。

本当にずっと寝ていたわけではない。

団員たちへの訓練指示に自らの訓練、他にも雑事があったりといろいろ動いていて少し前に、またここへ来て横になったのだが、ずっと寝ていたことにしても別段困るわけでもない。


クレアはザインの言葉を疑うわけでもなく、そうですか、と頷いている。

クレア自身も何をするわけでもなく、気の赴くままに歩き回っていただけだ。

寝ていたか、ぶらぶらと歩き回っていたか、という違いくらいで、そう大差はない。

似たもの同士、と言ったところか…と勝手に思っていた。


ザインは立ち上がり、さて宿に帰るか、と呟いた。


「…その…あなたの使っている剣はあなたが考案したものでしょうか?」


クレアの言葉に、ザインは、一度、自分の腰にある剣に目を落とした。


「興味があるのか?」

「えぇ。初めて見る形状ですので」


そう答えるクレアの声にも顔にも、やはり表情は見られない。

が。

ほんのわずか、目に楽しそうな色がある。


…やはり、人形ではないんだな。


ザインは密かに頷いた。


「いや、俺の先祖が好んで使っていたものだ。ブレイドソードをもっと細身にした上で強度もあげてある。…他にも別の形状のものがあるが、今度見るか?」


何気なく言ってみた誘いに、クレアは顔を上げ、是非に、と答えた。

声音にも楽しそうな色が乗った。


ふぅん…


ザインは口角をわからない程度に上げた。


穏やかな風が吹き、草がさやさやと音を立てた。



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