01.絶対零度

平野に城を構えた都市。

そこの祭りでの余興の一つに勝ち抜きの剣術大会が催されていた。

そこに飛び入りで参加した旅人がいた。

見知らぬ旅人の、しかも女性の参戦。

鮮やかな緑髪のザインはそれを楽しそうな目で見ていた。

華奢な体には不釣合いに見える大きなソードを軽々と振り回す、その少女はまるで人形のように、生気のない白い顎と頬をしていた。

顎のラインで切りそろえられたプラチナブロンドの髪が軽やかに動く。

クレアという名の少女の薄い茶の瞳は何の感情も映していなかった。


西方に小領主として拠点を持ち、収入源として中央や南部の大貴族と契約を結んでいる雇兵の隊長・ザインもまた、剣術大会に参加していたのだが、途中でいきなり辞退をした。

その対戦相手は不戦勝になり喜んだのもつかの間であった。

その次の相手はクレア。

女性であることを侮っていたこともあり、手も足も出せず敗退した。

その様子をさも楽しい事のようにザインは眺めていたのだった。



◇◇◇◇◇◇



裁縫や炊事といった女性らしさを示す家事は何一つできない。

ただ、偶然手にした剣は我ながら驚くほどに、手になじんだ。

何のために剣を手にする、と尋ねられたら、生きるためだ、と答える。

女性騎士になるわけでもなく、根無し草のような、冒険者のような、そんな生き方を選んでしまった自分だ。

女性らしい一切のことよりは、よほど役に立つだろう。


クレアはそう思っている。

剣を振るうことは、もはや当たり前のことになっている。

多くの女性のように、大人しく生きることは、もはやできないだろう。

ならば、悔いぬように、剣を手に生き抜くのみである。


立ち寄った都市で行われていた大会に、腕試しくらいのつもりで参加をしてみた。

気がつくと、最後の一人を打ち負かしていた。

もう終わりか、とソードを下ろした時、射るような視線を感じた。

そちらへ顔を転じると、鮮やかな緑の髪が目に止まる。

この大会の参加者であったが、クレアと対戦する一つ前の相手で棄権する旨を申告していた人物だった。


名は確か。

ザイン

とか言った気がする。


西方の傭兵団をまとめている小領主…だったろうか?

見た事のない細身の長い剣を腰にさしている。


そんなことを思いながら、クレアは背に負った鞘に大剣を収め、優勝したことを称えられ賞金を受け取ったのち、何事もなかったかのように会場を後にした。


途中、ザインとすれ違う。

一瞬、お互いの視線が交差するが、クレアはそのまま歩き去る。

クレアの目は、冷たい表情と同様に何の表情もなかった。


作り物のように動かない表情と、見事な剣筋とをもってしてザインの興味を多いに引いた。


これが二人の一の出会い。

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