ヒナアフター番外編⑭ リフレッシュは?(ヒナ視点)
受験勉強に煮詰まった時に最近の私が気分転換にすることは陽菜の日記を読むことだったりする。
陽菜の日記は心臓の病気の女の子が恋心を抱えながら生きていく意思に満ちていて、小学生から中学生になる女の子の気持ちが綴られていて読んでいるだけでほほえましくなる。
そして、この子こそが臓器移植によって救われるべき女の子なのだと私は強く思うのだ。
陽菜の体に入ってしまった私が言えたことではないかもしれないが、陽菜のような子にこそ臓器移植によって幸せをつかんでほしいと思う……そういう気持ちが私が受験勉強を乗り越えて臓器移植コーディネーターになりたいというモチベーションを保たせてくれる。
夕方から日が変わる時間まで机に向かって英文を読み、数学の問題を解いていた私はう~んと一つ伸びをする。
この時期に模試の判定が箸にも棒にも掛からぬようでは話にならないがしずくのおかげでどうにかギリギリB判定になっている私はラストスパートをかけることができれば合格の可能性が十二分にある。
「今日はどんな話かな?」
陽菜の日記を一冊手に取る。もう何度も通して読んでいるから全部のエピソードを覚えているが、陽菜の日記には私ではない
「あ、陽菜探偵団のエピソードか……」
陽菜探偵団は小学生の高学年の頃に陽菜が団長、恭を恭介少年として団員に迎えて2人でご近所のなぞ解きをするという探偵ものというか推理ものである。
小さいころからあまり小説を読んだりしてこなかった私には分からなかったがしずくが言うにこれは江戸川乱歩の『少年探偵団』という少年・少女向けの探偵小説をベースにしているらしい。
本当は明智小五郎という名探偵とその探偵の少年助手の小林少年が活躍する物語で、小林少年が少年探偵団という子供だけで作られた探偵団の団長なのだそうだ。
シャーロック・ホームズに ベイカー・ストリート・イレギュラーズというホームズが情報収集に使う浮浪者の子供たちがいてその子たちが元ネタの元ネタになるのだそうだ。
余談はそのぐらいに私は陽菜の日記に目を落とす。ちょうど7年ほど前の冬の日記だ。
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12月21日
恭ちゃんあのね、今日も恭ちゃんと一緒になぞ解きができて楽しかったよ。
この数日間、び熱が出ちゃってお外に出ることができない私のために恭ちゃんが毎日遊びに来てくれていっぱいお話ししてくれるから学校に行けなくても楽しい時間が過ごせてるよ。
恭ちゃんいつもありがとう。恭ちゃんがこうやってそばにいてくれるだけでとっても幸せ。ずっとそばにいてくれるといいなって思うし、ずっとそばにいてもらえる私になるね。
今日の恭ちゃんのお話はご近所で起こった事件のお話。こういうとき恭ちゃんは恭介少年として私の助手になってくれる。
私があんらくいす探偵なんだって。あんらくいす探偵っていうの事件の現場に行かずにお家にいてイスに座わったままで依頼人や探偵助手の持ってくる情報だけで真実にたどり着いちゃう探偵さんのこと。
私の場合はイスに座ってなくてベッドで寝てるからベッド探偵? う~ん、あんまりカッコよくないからあんらくいす探偵でいかせてもらおう。
恭介少年が持ってきた今日の事件は『団地のお部屋が別の部屋に変わっちゃっていた』という怪事件だった。
隣のクラスの芽依ちゃんが橋のそばにある団地のお家に帰ってお部屋にたどり着いて「ただいま~」ってドアを開けようとしたら中からお母さんじゃない人が出てきちゃったというのだ。
「この数日は雪が降っていて積もっていたんだけど橋の上も団地の道も駐車場も雪が積もっていたんだって。不思議な話だよね」
恭ちゃんがそういってその謎を持ってきてくれた。確かにこの数日はこの辺りでは珍しく大雪が降っていて消防自動車も災害対策で巡回してるって聞いてた。
んだけどその後2人で会話を続けて謎時代は解けたんだよね。芽依ちゃんは無意識にお母さんの赤い車を目印に自分の団地の中のB棟入り口を判断してたんだけど、その日は雪が積もっていて赤い車が雪で隠れてしまったのが原因だった。
赤い車がないのでそのままB棟を通りすぎ雪の中でC棟の前の赤い何かを見間違えてC棟に入り自分の部屋と同じ位置の302号室で別の部屋にたどり着いちゃったのだ。
じゃあその「赤い何か」とは何だったのか?
巡回していた消防自動車が止まっていたのがC棟の前だったってことだった。消防団員さんが凍り付いた橋にゆう雪剤? っていうのを撒いてくれていたらしい。
そんな話を恭ちゃんと推理というか想像しながらも私はちょっとびみょうな気分だった。
なぜ芽依ちゃんが恭ちゃんに相談したのかというのが気になっちゃったからだ。
恭ちゃんは人気者だ。ひょっとしたら芽依ちゃんは恭ちゃんのことを……そんなことを考えたらモヤモヤしちゃう。
健康だったらこんなことでモヤモヤしなくていいのかな?
それともやっぱりモヤモヤしちゃうのかな?
あんらくいす探偵なのに分からないことばっかりだよ。恭ちゃんがそばにいてくれればそれで安心できちゃうんだけど。
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陽菜の日記は日記だけど恭への呼びかけの形で始まることが多くて最後は陽菜から恭ちゃんへの気持ちが打ち明けられてることもある。
この2人は実際両思いで小学6年生の時には将来結婚しようと約束するくらい仲が良かったのだ。
それにしても陽菜が安楽椅子探偵するのにどのくらい恭の尽力があったのかはちょっと気になるところだ。
運命のいたずらが2人を引き裂いて私が間に入ったせいで恭の命まで……だからこそ私はしっかりと自分の足で歩いていこうと思う。
陽菜の分までというのは言い過ぎかもしれないけど、たくさんの人が幸せになれるように頑張ろうって思うのだ。
受験勉強もあと2か月ちょっと。最後まで気を抜かずに合格を目指したいと思う。
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