ヒナアフター番外編⑬ 受験シーズンカウントダウン(ヒナ視点)

 受験生である私たち高校三年生にとって追い込みの時期がやってきている。

「結局私以外全員推薦って……まあ私の場合は身から出たサビなんだけど」

 お昼ご飯を食べながらみんなと話をする。ひよりまる村上のスポーツ組は推薦確定。しずくは学校推薦の枠で医学部受験。

 みおに関しては専門学校なので入試自体が存在しない。


 結局2月までがっつり受験勉強しないといけないのは私だけなんて……

「どんまい、ヒナっち。でもすごいと思うよ。あーしよりも成績悪かったところから一般入試で普通に合格圏内まで持ってきたんだから」

「しずくちんはすごく勉強できるから推薦が取れたんだよ。まるはひよりのおかげで剣道を始めなかったら大学には行けなかったんだよ」

「剣道を始めて2年程度で推薦が取れるのどかがおかしいんだ。もっと早く一つのスポーツに打ち込んでいればもっと選択肢は広がったんだぞ」

「まあ、まるちゃんの場合はひよりちゃんがいないと練習に打ち込めなかったからね。それにしてもみおちゃんのいう通り、ヒナちゃんの頑張りは先生方も褒めていたわよ」

 称賛するなら推薦くれ……いまいちゴロが悪いね。フレーズは有名だけど元ネタのドラマは見たことがない。


「たしかに一年生の成績が絶望的にボロボロすぎて評定平均が足りなかったんだけどさ……ひよりの評定平均A、平均値5.0とかまで行くともはや何かの冗談にしか見えないけど……」

 一年生の時の通知表見ると本当にお情けで進級させて貰ったんだなぁって思うもんね。そしてしずく……一つぐらい隙がないものか。うちの高校はそもそも進学校の枠にぎりぎりひっかかってるレベルの学校でしずくのような優等生の化身がいること自体がおかしいのだ。


「ヒナちゃん!? 褒めてるの? けなしてるの?」

「いや、だってうちの学校にしずくって『掃き溜めに鶴』とか表現されるやつでしょ?」

 そういう話で言えば恭もたいがい優等生だった。というか文武両道? 一年生で水泳部の選手に選ばれてたし成績も常に一桁の順位をキープしてたはずだし。


「そういえばまるをこの学校に誘ったのはしずくちんだけど、しずくちんはなんでこの高校に入ったんだよ?」

 しずくと2人で思わず顔を見合わる。

 ちょっと話にくい部分があるが「風が吹けば桶屋が儲かる」的な話で言うと私の心臓が悪かったからってことになるんだろうか。

 しずくとの勉強は遠回りでも下から積みあげる方法だったから「風が吹けば桶屋が儲かる」の風→目が悪くなる→三味線→猫が減る→ネズミが増えるというめちゃくちゃな論法もしっかり勉強したけどその理屈で言ってしまうなら私の心臓が健康だったらこのメンバーがこの学校に揃うことはなかったわけだ。


「ヒナちゃんの心臓が健康だったらみんなでこうやって友達やれてなかったのかもね」

「そうかなぁ。あーしはなんとなくこのメンツで集まっちゃった気もするけど……」

「でもその場合は今のヒナちんじゃなくて元々この世界にいた陽菜ちんなんだよ」

「私は元の姫川陽菜とは面識がないが、こうしてみんなと友達になれたことは私にとっては本当に幸せなことだったと思うぞ」

「そうだね……入れ替わらなかったらなんてifは考えても仕方ないけど、今こうしてみんなと一緒なのは幸せだよ。それはそれとして私だけ2月(後期日程は考えたくない)まで受験なんだけど抜け駆けして卒業旅行とか行かないよね?」

 私がみんなを見るとみんなは笑顔で頷いてくれる。

「「「「当たり前でしょ(だ)(なんだよ)」」」」


 最後まで受験勉強を頑張る意欲が湧いてくる返事だった。


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ちょっとした小話


(風が吹けば桶屋が儲かる)

しずく「ヒナちゃんが心臓の移植で入れ替わる」

ヒナ「入れ替わったことが不満で荒れてしまう」

しずく「荒れた結果、成績が落ちて入学する高校のレベルが下がる」

ヒナ「恭が私と同じ高校に入るために碧野高校を進学先に決める」

しずく「バレンタインに進学先を聞き出した私が碧野高校に進学先を変更する」

ヒナ「う~ん、見事な『風が吹けば桶屋が儲かる』だね」

しずく「聞き出して一週間後の出願時に志望校変更しちゃったもん」

ヒナ「乙女の恋心ってすごいね。しずくがいなかったら全部違ってたんだろうなって思うもん」

しずく「今思うと恥ずかしいどころの騒ぎじゃないけどね。先生たちも大慌てだったし」

ヒナ「友達になってくれてありがとう」

しずく「こっちこそ。それに主治医になるんだからもうちょっと待っててね」


という会話が2人の時に交わされたとか交わされなかったとか。

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