ヒナアフター番外編⑫ みおと一緒に……(ヒナ視点)
私には藤岡みおという友達がいる。多分私の周りで一番大人で一番世話焼きな女子高生だ。
今日の私はそんなみおの家に泊まりに来ている。
「あら、ヒナちゃん。そんなに遠慮することないのよ。もっと食べなさい」
みおのお母さんからお替りのご飯をよそおわれる。いや、遠慮してるとかじゃなくてもうお腹いっぱいだから! みお、私のことをどれだけ食いしん坊キャラだと家族に説明してるの?
「そうだよ、みおから聞いてるけど入院したり大変だったんだろう? うちのお米は広島の僕の実家で作ったものだから、新米だから好きなだけ食べていいからね」
はい、お父さん。新米甘くて柔らかくてすごく美味しいです。
こんな風に藤岡家の夕食散々食べさせられてお腹がパンパンになってしまった。せ、世話焼きは家系だったのか……
9月の2回目の三連休の中日、3年生の私たちは部活はもう引退してるんだけどもはや推薦での大学入学が確定しているひよりとまるは広島の大学まで出稽古、しずくは二次試験用の模試と忙しく、ヒマしている(受験勉強はしてるけど)私をみおが呼んでくれて一緒に勉強会することにしたのだ。
ちなみにこの2人だと私の方が成績が上なのでみおに教えることになる。
みおに関しては専門学校でメイクの道に進むって決めているので学校の定期テスト対策が中心になるんだけど、人に教えることで私も自分の知識をより深く理解して定着していくことができるので悪いことじゃないと思う。
「ヒナっちって本当に勉強できるようになったよね。あーしよりもチャラチャラしてて成績も悪かったのに、やっぱヒナっちは凄いわ」
勉強会をするということで藤岡家にお邪魔してごちそうになった後、みおの部屋で2人で勉強を始めたんだけどしばらくしてみおがそんなことを言い出した。
「しずくや先生たちのおかげだって。私なんて本当に教えて貰った内容を必死で覚えてるだけでまだまだ自分で考える力なんて身についてると思えないし」
謙遜でなくそう思う。しずくがいなかったら、先生たちがみんなで応援してくれなかったら夢に向かって進むことなんてできていなかったろうなって思うから感謝しかない。
「いやいや、勉強だけじゃないよ。結局水泳部のマネージャーの仕事もしっかりこなして村上っちの全国優勝に貢献したし、生徒会長のしずくを支えて副会長として任期を勤め上げたし……」
さらに褒め言葉を重ねて来るみお。みおが同性じゃなかったら口説かれてるのかなって思うくらいだ。
でも、みおも私なんかよりよっぽど女の子らしくて優しいし、世話焼きで気が利くんだから。
「みおの方こそ気が利くし……そういえば知ってる? みおって『オタクに優しいギャル』って言われてるんだよ」
最近聞いた噂話。誰にでも分け隔てなく接してるだけで特にオタクに優しくしてるってわけでもないわけなんだけど、見た目が茶髪でしっかりメイクしてるギャルがちょっと根暗めの男の子にも普通に接してるのが第三者視点からだと『オタクに優しいギャル』に見えるらしい。
いや、それっておかしくない? 誰にだって優しく接するのなんて当たり前……って昔の私はそうじゃなかったかもしれないからやっぱりみおは偉いのかな?
しばらくそんな話で盛り上がってから話題が変わる。
「そうそう、ヒナっちの意見も聞いてみたいと思ってたんだけど、最近出たコスメなんだけどさ……」
みおと2人の時はよくこういうコスメとかメイクの話をする。みおは本気でそっちの道に進もうと思っているし、私は今でこそそこにこだわりがなくなっているものの昔は結構好きだったからね。夏休みに
そこから2人でちょっと勉強の手を止めてスマホでいろいろと検索して秋コスメの話をして盛り上がってしまった。
「本当、女友達ってこういう話するのが楽しいよね。ヒナっち相手だとマウントって言うか、張り合う感じにならないし。結構さ、他の子とこういう話してるといろいろ思うところもあったりするからさ」
「それは仕方ないと思うよ。私だって昔だったらみおみたいに詳しくてメイクが上手い子見ると悔しかっただろうって思うし。私もなんのかんの言って負けず嫌いだし……まあ、メイクに関しては私は降りちゃってるからみおから教えて貰う情報めっちゃ助かってるしね」
今の私は周りにいる人から何かしら刺激や知識を得ることができるということを知っている。反面教師っていう言葉を使うはめになることがあってもそれでさえも成長につなげていければいいのだ。
「あ、ヒナっち……このニュース……」
そう言ってポータルサイトのトップに載っていたニュースをみおが見つけてスマホを私に向けてくれる。
そこにあったのは臓器移植に関する記事。臓器移植に関して人員・病床不足などで移植の見送りが昨年1年で509人だったという調査を厚労省が初めて行ったというニュースだった。
私自身は心臓の臓器移植によって命を長らえた人間なので臓器移植という医療技術に関して並々ならぬ興味を持っている。
その記事を熟読する。
「なるほど……やっぱり大変だよね。脳死になった人の希望と家族の許可があっても受け入れる側の体制が整ってないといけないわけだし……」
脳死状態というのは脳の全ての働きがなくなった状態で脳幹も働いていないので人工呼吸器などの助けを借りなければ10日も生きることができない。その体から摘出させてもらう臓器は摘出後、心臓では4時間、肺で8時間、肝臓や小腸で12時間、膵臓や腎臓では24時間以内で血流を再開できなければならないそうだ。
つまり、摘出手術ができる病院、受け入れして移植ができる病院、体調に不備がなく手術ができる患者、すべてが揃って初めて移植手術が可能になる。
今回の調査は「医療機関の体制」が原因で見送られたケースが509人(複数の臓器を提供している場合もあるので)いたということだった。
移植手術という大変な医療に対する診療費の問題やサポート体制の大変な状況についてもコメント含めていろいろと書かれている。
「ふ~ん、それでもヒナちゃんは一件でも多くの移植手術ができるように移植コーディネーターになる夢を諦めるつもりなんてないんでしょ」
みおがちょっと小悪魔チックに笑いながらそんなことを言って来る。う……今自分でそのことを考えたばかりだから返す言葉がない。
「諦めないって言ったらさ、昔恭っちに言われたことがあるんだよね。『最後まで諦めるな』って」
ぽつりとつぶやくようにみおがそんなことを言った。そういえばみおから恭に関する話ってあんまり聞いたことがなかったな。
「恭が言いそうな言葉ではあるけど、どんなシチュエーションでそんなことを言われたの?」
みおの表情から私に話そうかどうか悩んでるような雰囲気があったので背中を押すように聞いてみる。
「そうだね……ちょっと恥ずかしいけどあの時のことを話してもいいかな」
そう前置きするとみおは懐かしむように話し始めた。
~~~~~(みお回想)~~~~~
あれは中学3年生の時の運動会、たしかヒナっちはサボってていなかったよね。
覚えてないかもしれないけどあの頃のあーしはちょっとぽっちゃりしてて今考えると陰キャって言うか大分もっさりしてたんだよね。
うん、メイクなんて全然してなかったし……ていうか中3であれだけメイクとかしてたヒナっちが進み過ぎてただけだから。
そんな時にさ、運動会でリレーの選手に選ばれちゃったんだよね。そう、あの紅白対抗リレーっていう選ばれた選手が走るやつ。
まあ、ぽっちゃりしてはいても走るのが遅かったわけじゃないし、身体能力はそれなりだったから選ばれたからには頑張ろうって思ってクラスのメンバーと一緒に放課後に練習とかしてたわけ。
そこにはしずくとか恭っちもいたんだけどね。恭っちは水泳部だけど体を鍛えてただけあってすごい速くてさ。みんなで恭っちに走り方を教えて貰ったり、バトンのパスを一緒に練習したりしてどうにかリレーとしての形を整えることができたって感じ。
で、練習の日々も終わっていよいよ本番当日、朝から天気が良かったのを覚えてるよ。
まあ、リレーは最後から二つ目の競技だったからさ。うちら紅組の3チームと白組の3チームで並んでヨーイドン!
で走り始めて第3走者が恭っちでバトンを受ける第4走者があーし。恭っちはトップでバトンのパスゾーン……テイクオーバーゾーンって言うんだっけ? そこに駆け込んできたわけ。
ん、いやいや、バトンパスで落とすことはなかったんだよ。練習通りにほぼ完璧なバトンパス。で、あーしも全力で走ったんだけどそこに落とし穴があって……恭っちの方が足が速い分ちょっとオーバー気味のペースでバトンを受けちゃって自分の走る担当の最後の最後で足がもつれて転んじゃったんだよね。
それまでめっちゃ応援してた紅組の席の前で転んじゃったからみんなのガッカリしたようなため息のような声で力が抜けちゃって……体が動かなくなっちゃってさ。
リード守れてたのに後ろから5人が抜いていって、もう泣きそうになって……いや、泣いちゃってたかもしれないんだけど。
そしたらさ「最後まで諦めるな!」って言われて後ろから抱きかかえられて起されたの。うん、それが恭っち。
右の膝小僧すりむいちゃってるあーしを見て、肩を貸すようにして残りの20m位を二人三脚みたいに走り切ってさ。
どうにか第4走者にバトン渡して、渡したと思ったらちょっとぽっちゃりぎみのあーしをおんぶするようにして救護室というか救護のテントに連れてかれて……
あーしのことを女として意識してないからだろうけど靴脱がされてソックス脱がされて膝小僧を水でこ洗われて消毒されて……あっというまに応急処置されちゃったわけ。
ああいうところは本当に女心が分かってないよね。こっちは恥ずかしいんだぞって思っても真剣な顔で手当てするから何も言えなくて。
で、気付いたらリレーが終わってるんだけど結果は白組のチームが1組コケちゃって5位。あそこであーしが止まってたら1点も取れなかったことを考えたらちょっとでも点が入っただけでも良かったんだけどね。
……で、そこからなんだけど「逆転されたか……藤岡のせいじゃないよ。大丈夫。取り返してくるから」……そんなことを言ってあーしの赤いハチマキをほどくと自分がしてた恭っちのハチマキと交換してくるわけ。
「見てて。藤岡のハチマキ、誰にも取らせないから」
そういってあーしのハチマキをギュって締めてからグランドに走っていった恭っちの背中を見送らされて……
え? この話のオチ?……その後の騎馬戦で恭っちが騎手になった騎馬が本当に最後まで残って紅組の逆転勝ち。
もうね、あーしって被害者だと思うレベルだよね。どう思う。恭っちは陰キャ女子にも優しいイケメンって感じで……
小学生のころから知ってるし恭っちがヒナっちというか陽菜ちゃんしか見てないの分かってたし、どうにもならないよね。
で結局、その時の恭っちの活躍を残したかったって思いからカメラにハマり、恭っちが気にしてるヒナっちが大人っぽいメイクしてるからメイク覚えて……まあ今のあーしが出来上がったってわけ。
~~~~~~~~~~
「なんかゴメン……」
「謝るなしっ! いや、謝って欲しいわけじゃないしヒナっちの話は理解したからヒナっちのことを恨んだりとかないから」
「でも……」
「いや、最後まで多々良恭介は多々良恭介だったんだなって思うくらいで本当にそういう人だったんだなって思ってるって話だから」
「じゃあ、お彼岸だから行くつもりだったお墓参り。一緒に行こう」
ちょうど明日は秋分の日だから恭の墓参りに行こうって思っていたのだ。
その後は2人で恋バナで盛り上がった。寝るまで語って2人で落ちるように眠る。2人して同じ人の夢を見たかもしれない。
・
・・
・・・
2人でお墓の掃除をしてお花とおはぎをお供えする。すでに恭の両親が来た後なのか恭のお墓は綺麗になっていた。
ハチマキと同じ赤色の彼岸花が咲き乱れている。
「恭、今日はみおも一緒に来てくれたよ」
「恭っち。お墓参りに来たよ。お葬式以来だね」
私が出てなかった恭のお葬式の話を聞く。恭は脳死状態で臓器提供をするために解剖されていたし事故の影響で擦り傷なんかもたくさんあったはずなのだが凄く綺麗な状態で納棺されていたらしい。
「ヒナっちはエンバーミングって知ってる? まあ、エンバーミングと日本の死化粧は違うんだけどね。エンバーミングは遺体の保存を目的とした処置で、死化粧はあくまでも亡くなった人に施す化粧だから。
でもね、恭っちに関しては本当に丁寧に、お別れするみんなが恭っちのことを純粋に悼むことができるように本当に綺麗してあったんだ。あれを見てね、あーしはもちろん普通に生きている人のメイクもするつもりだけど、磨いた技術で死化粧やエンバーミングも出来るようになるつもりなんだ」
みおのそんな話は初めて聞いた。でも将来、この世話焼きで気遣いのできる友人なら故人を悼む気持ちを持った遺族の力になれる日が来るんだろうなって思った。
「「私たち、これからも諦めずに進んでいくから。ずっと見守っていてね」」
2人の言葉が重なり、線香の煙とともに空へと消えていった。
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ちょっとした小話
ヒナ「それでこのハチマキが恭のしてたハチマキなんだ?」
みお「そう、恭っちったら人のハチマキ交換してるのにそのまま帰っちゃうし」
ヒナ「あ~、そういうところ気にしないよね。騎馬戦の興奮で絶対忘れてるから」
みお「そう、あれであーしを女子だと思って惚れさせるためにやってるとかならその後、『やったぞ!』って声掛けに来たら一発で墜ちてたと思うんだよね」
ヒナ「なのに、全く意識してないから……女の子のためなら全力以上出すくせに」
みお&ヒナ「「はぁぁ~」」
みお「いつか天国で会うことがあったら一言文句言うわ。文句言っていいよね」
ヒナ「みおは恭の被害者の会に入れると思う……それはそれとして……クンクン」
みお「こら、あーしの……の匂い嗅ぐなし!!」
ヒナ「いいじゃん、もう何年も前のなんだから匂いなんて残ってないでしょ」
みお「それでもこれはあーしのだから。ヒナっちはヒナっちでいろんな宝物があるでしょ?」
ヒナ「それはそれ、これはこれ」
寝る前にそんな会話が交わされたとか交わされなかったとか。
※元の世界のみおちゃんとエンバーミングの話はヒナアフター⑱「臓器移植コーディネーター」で少し触れられています。
きっかけは恭介くんでした。
あとこっちのみおちゃんは実家暮らしです。インスタも高校生の趣味でマンション買うことはないです。
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