番外編㉔ 共通テスト模試に行こう①

 結局、ケガで高校総体に不参加という結果になったので遅ればせながら受験勉強を本格的に始めることになった。


「ということで、恭介さんは私と一緒にこの参考書を解いてもらいます」

 この状況になって俄然生き生きとしてきたのがしずくである。

 実は俺達って高校三年生のグループであるにもかかわらずまともに受験勉強に取り組んでいたのがしずく一人だったのだ。それはもう孤独な闘いだったらしい。

 いや、俺は俺なりに自分が推薦を受けられなかった時のために準備は進めてきた。それでも夏の高校総体までは剣道に全集中の構えだったのでここまでは受験生として中途半端だった感は否めない。


 ここで受験地獄? への道連れが出来たしずくの喜びようは俺たちの想像以上だった。

「あ、ありがとう……でも、しずくの方がずっと大変なんじゃないのか? 俺は経済学部志望だから簡単なわけじゃないけど共通テストが1000点+二次試験で800点だけど、しずくの方は医学部だから共通テストが1000点+二次試験が1800点なんだろ?」


 共通テストの比率が高いほど楽ってわけじゃないけど、共通テストじゃ測れない深い知識と思考力が要求される医学部受験は凄まじい倍率で篩にかけられるって話だ。


「私は現状では合格圏内、模試でB判定が出てるから」

 しずくがサラリと言う。

「えっ? だって、高3の夏って言ったらまだ浪人生が強いからその中でB判定って相当凄いんじゃ」

「そういう風に考えてると後ろから抜かされるから油断するつもりはないけどゴールが見えてきてる感覚はあるから」

 しずくの凄まじさにちょっとゾクッとした。


「恭介さんが改めて高校三年生の夏から勉強を始めたのを理解した上で私も一緒に受験勉強をしたいと思います。この格好は私の決意の表れです」

 しずくの言葉には絶対の説得力があった。

 けどその格好女教師って?


「しずくちゃん、なんで女教師なの? メガネにタイトスカートに胸元の開いたブラウスって本当に勉強を教える格好なの!?」

 陽菜が思わずツッコミを入れている。陽菜の言う通りしずくの格好は女教師としか言いようがない格好で紺色のタイトスカートはともかくヒラヒラした胸元の防御力が低そうなブラウスと今までかけているのを見たことがない銀縁メガネは確実に新調してるでしょ? ブラチラこそしてないもののとってもセクシー。


「陽菜ちゃん、陽菜ちゃんは恭介さんが浪人してもイイの? 私は恭介さんが一番勉強に集中できる環境を作るつもりよ」

「でもでもしずくちゃん、本当にその格好で恭介くんが集中できるの? ……恭介くんはどう思う?」

 陽菜が俺に話を振ってきた。ちなみに今いるのは陽菜の部屋。退院してからはお世話されついでに同棲生活みたいになっている。

 まあ、右手はまだギブスがついてるし要介護で俺の部屋だと陽菜がお世話するのにちょっと不便だからって建前だけど。


「えっ? 俺はしずくが俺のことを考えてくれた結果なら信じて頑張ろうって思うけど」

 しずくのことだからとんでもないことを考えてても最終的には間違いなく俺のためになるはず。

「そうよ、陽菜ちゃん。私は伊達や酔狂でこんな格好をしてるわけじゃないの……じゃあ席について

 しずくから俺の肩を押さえるようにして陽菜の勉強机に座らされる。なにこれ? しずくに耳元で『』って言われるとなんだか年上のお姉さんに命令されたみたいで逆らえないんだけど。


「うう、このままじゃ絶対ちゃんとしたお勉強にならないから! 恭介くんちょっと待ってて。お母さ~ん、お母さんってタイトスカート持ってる~?」

 しずくに対抗するためにさちえさんを頼りに行った陽菜を見てしずくと顔を見合わせてちょっと苦笑してしまう。


……

………


「それじゃあ右手で鉛筆が握れるようになるまでは受験頻出の英単語や古文漢文の読解問題、世界史の勉強を中心に勉強しましょう」

 しずくに言われて陽菜と2人で質問する。女教師の格好をしているのに質問する生徒側の陽菜が可愛い。

「なんで数学とか化学、物理みたいな理系科目に手を出さないんだ?」

「恭介くんは経済学部だから数学とかを勉強した方がいいんじゃないの?」

 俺の質問に陽菜が志望学部まで合わせて質問する。

「それはね、二次試験の勉強を今から詰め込むよりまずは共通テストの対策をしっかりして基礎を固めた方がいいこと、もう一つはそのギブスで固められた右手ね」

 しずくが説明してくれる。話しながら俺のギブスを擦っている手がそこはかとなくエロいのが気になるけど。


「怪我をしてるから暗記科目ってこと?」

「右手が使えたらどう違うの?」

 俺達はまるで2人揃って教えて教えてと質問するひな鳥でしずくがそれに答える母鳥みたい。


「うん、結局数学の実力をつけるのって自分の手を動かして途中式を書きながら答えを導くトレーニングをするのが一番って部分があるから。チャート式の参考書を眺めるんじゃなくて実際に手を動かして式の過程を追う。それだけで解法の頭に残る割合が全然違うのよ」

 なるほど頭のいい人間の勉強方法は最初から効率重視な部分があるんだな。俺の場合はとにかく泥臭く時間をかけて片っ端からガリガリとノートに書いて手を動かして勉強するスタイルだから今みたいに自由に腕が動かないなんてハンディがある場合は向いてないやり方だろう。



「それでしずくちゃん、結局のところこの格好は一体なんなの?」

 陽菜がしずくの女教師のコスプレ(あえてこう呼ぶ)にツッコんでいる。いや、陽菜の方もさちえさんに借りたタイトスカート(ちょっとピチピチそれはそれでエロい)でポニーテールにしているんだけど。さちえさんの赤い縁のメガネを借りている陽菜も完全にちょっとエッチで可愛らしい女教師になっている。


「陽菜ちゃんはエッチなマンガとか動画を見ないから分からないかもしれないけど、この世界には男性の家庭教師や先生が女子校生くらいの女の子に個別指導して勉強を頑張ったり問題が解けたらご褒美に(男の)乳首を見せてあげたりおちんちんを触らせてあげたり……最後はそのまま処女を貰ってくれたりするっていうジャンルがあるの!」

「『あるの!』ってそんな力強く言われても……」

 陽菜がたじたじになるレベルのオタク特有の早口になってるしずくさん……うん、業が深い。


「本当はね、私が恭介さんに家庭教師になって貰ってエッチなご褒美をエサに受験勉強に立ち向かわせて欲しいくらいなの。でもね……流石に恭介さんにそんなおかしなことは頼めないし剣道に全集中だったから……でもまさかの恭介さんと私で受験勉強に挑むことになって。

 やっぱり私が恭介さん……いや、に教える側になるんだったら貞操逆転したエッチな家庭教師はでやってもいいかなとも。ほら、逆に女性家庭教師がそういうエッチなことをご褒美にしたらってものすごく頑張りそうじゃない!」


「しずくちゃん、ひょっとしなくても一人で受験勉強するのが寂しくておかしくなっちゃったの?」

 陽菜がちょっと引きながら聞いているけど、俺はしずくが受験にあたって感じていたプレッシャーを今実感としてひしひしと感じているのでそのあたりは驚かない。


「それは違うぞ陽菜、しずくは元々ちょっとおかしなところがある」

「もうっ、恭介さんひどい! 私は恭介さんいや、が勉強に集中できるようにって考えて……」

 それが女教師コスっていうのがなんというか明後日の方向なんだけど、もうこの際気持ちが嬉しいから受け入れることにしよう。


 俺の横に立っているしずく先生を上目遣いに見つめる。

「それじゃあしずく先生……今日はノルマ分の英単語を全部覚えることが出来たらお、おっぱいを見せて……ダメ?」

「ふふ……可愛い、いいわよ。でもまずはおっぱいじゃなくて目の前の英語の単語に集中しないと覚えられないわよ」

 ノリノリのしずくがブラウスの胸元をピラッとめくって見せる。


 ブラチラしないと思っていたらノーブラでした。この後陽菜としずくのご褒美を目標ニンジンにしてめちゃくちゃ勉強が捗った。

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ちょっとした小話


しずく「ふぅ……ちょっと根を詰めすぎたかな。恭介クン、10分休憩しましょう」

恭介「了解。う~ん、まだギブスを吊ってるせいか肩が痛くなるな」

陽菜「恭介くん、肩もみしてあげようか?」

しずく「あ、それいいわね。陽菜ちゃんは恭介くんの肩を5分間揉んであげたらその後は後ろから抱き締めていつも思ってる気持ちを耳元で囁いてあげて」

陽菜「? うん、分かったよ」

もみもみもみもみ ぎゅぅ

陽菜「恭介くん、いつもそばにいてくれてありがとう。怪我した時は心配したけどそういう恭介くんも大好きだよ」


(5分経過)


恭介「なにこれ? 勉強してたストレスや疲れが吹っ飛んだんだけど?」

しずく「男女がイチャイチャする時に分泌されるホルモンのオキシトシンの効果でストレスが軽減されたのよ。ちなみにエッチの時にはドーパミンが出るからこっちでやる気を出してね」


飴と鞭ならぬ、飴とアメで無事スタートダッシュが切れたとか切れなかったとか。

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