バレンタインSS② バレンタイン当日(陽菜視点)

 というわけでついにやってきたバレンタイン当日の朝。

 平日だけどまるちゃんが泊まりに来て恭介くんと3人で寝てたので目覚めると同時にキスした後でチョコレートを渡す。寝起きのキスはいつも軽いキス。そこは恭介くんが譲らない私の健康を守るための一線。


「はい、恭介くん。バレンタインデーのチョコレート。大好きだよ」

「きょーちん大好き。これはバレンタインチョコなんだよ。陽菜ちんとしずくちんに教えてもらってまるが自分で作ったんだよ」

 それぞれ作ったチョコレートは違うけど恭介くんに手渡す。今日はいっぱいチョコを貰うだろうけど私のチョコを一番最初に渡して食べて欲しいって願うくらいは彼女の権利だよね。

「ありがとう。食べてもイイ? 陽菜が生チョコでまるがクランチチョコか。凄く美味しそう。2人とも大好きだよ」

 そう言って右手で私を左手でまるちゃんをなでなでする。その後で一口ずつ食べて嬉しそうな笑顔。恭介くんのこの笑顔のためなら今日一日頑張ろうって思える。


 ということで恭介くんとまるちゃんと三人で登校。

 私たちのチョコはすぐに食べることを前提にしてるけどチョコレート教室で参加者に作ってもらったチョコは基本的に市販の板チョコを溶かして固め直して作ってもらったものがほとんど。賞味期限がすぐに切れるような傷みやすい手作りは今回は遠慮して貰った。

 チョコレート教室に参加せずに恭介くんに渡したい人は市販品、それも1000円以内でお願いしている。あんまり高額なチョコだと恭介くんも返せなくなっちゃうしね。


 はぁ……この状況でいまだに自分はモテないと言い張ろうとする恭介くんのことをつねりたくなってしまう。もうちょっと自信を持ってもいいと思うけどしずくちゃんからは変に増長するよりも今のままの方がいいと思うってアドバイスされた。

「恭介くん、今日は極力教室から出ないようにね。お手洗いに行くときはゆうき君と一緒に行って一人っきりにならないようにね」

 心配し過ぎてし過ぎるということはないというか……今までの恭介くんを見ていると浮気の心配はないけど事故というかひどい目にあいそうで今日みたいな日はちょっと不安。


「多々良と村上が逃げたぞ~!! そっちから回り込め!」

「ああっ、クソッ! コイツら手を繋いでなかったら村上だけでも捕まえられるのに……」

「お前たち、何をしている!! 廊下を走るなと言っているだろうが。それ以上暴れるようならを没収するぞ」

 トイレに行った恭介くんとゆうきくんが3年生の女子に追い回されて、風紀委員の立場のひよりちゃんに助けられ休み時間の終わりぎりぎりに息も絶え絶えに戻ってくるということが2度ほどあったもののどうにか放課後になった。



「は~い、恭っちとゆうきっちにチョコレート渡したい女子はこの列に並んで~」

「きょーちんとゆうきちんにチョコを渡す前にこの名簿に名前を書いて欲しいんだよ。ホワイトデーにお返しするんだよ」

 みおちゃんとまるちゃんが列を整理して、椅子に座った男子2人が順番にチョコを受け取れるようにして私が恭介くんの受け取ったチョコレートに、しずくちゃんがゆうきくんが受け取った整理番号を付箋で貼っていく。せっかく渡してもらったチョコレートだもんね。渡した人も誰から貰ったものかがちゃんと分かるようにして食べて欲しいって思うだろうし。


「やっと終わった。沢山チョコを貰えるのは嬉しいけど流石にこの量は……」

「そうだね、きょうすけ。ネットアイドルとしてデビューしたから何個か貰えるのかなって思ったけどこんなにチョコを渡されるとは思わなかったよ……」

 恭介くんとゆうきくんが全部のチョコレートを受け取り終わってちょっとぐったりしてる。

 ふたを開けてみたら恭介くんよりもゆうきくんの方が受け取ったチョコは多かった。やっぱり学園のアイドルだし、女の子みたいな男の子って言っても立場的にフリーっていうのが魅力だよね。

「きょーすけ、お返しを作るときは一緒に作っていいかな? 僕も手作りでお返ししたいし」

「もちろん。ゆうきと作れるならそれはそれで楽しそうだし」


 コンコン


 やっと人気ひとけが引いた2年5組の教室のドアをノックして自分の方に注意を向けた人が2人。

「あ、ゆかりさん。それにゆうかも。ひょっとして……」

「あ~、多々良に義理チョコ……いつも水泳部でお世話になっていたお礼。いや、本当は本命なんだけど本命って言ったら多々良が困っちゃうから……」

「多々良先輩にチョコを渡したくて。日頃のお礼です。今年私が渡すのチョコレートはこれ一個だけなんですよ。お兄ちゃんにもあげてないんですから味わって食べて下さいね」

「ありがとう。ゆかりさん、俺の方がお世話になりっぱなしなのに……あ、ホワイトデーの頃はもう卒業してますよね? でも絶対返しますから。

 それに、ゆうかもありがとう。でもゆうきにもチョコあげろよ。ゆうかはお兄ちゃん大好きっ子だろ」

「あ~、じゃあまたその頃にプールにでも誘うよ。あ、チョコは鼻血が出るからお返しはチョコ以外で」

「多々良先輩、お兄ちゃんと結婚して私のお義兄ちゃんになってもいいですよ。そしたらお義兄ちゃん大好き義妹としてラッキースケベを狙います」

 う~ん、今日チョコを渡してきた女の子の中で一番物分かりがいいのに一番諦めてない感じの2人が怖い。ゆうかちゃんはいつもだったら「私はアイドルだから恋愛厳禁なんです」って自分で言ってるのに。


 その後は、ジュースを買って来て教室で私たちとゆうきくん、ゆうかちゃん、北野先輩の9人でチョコを食べながらおしゃべり。

 どうにか無事にバレンタインデーを乗り切った乾杯って感じ。

「そういえば、ひよりたち風紀委員がチョコレートの取り締まりをしなかったのが不思議だったんだけど」

 恭介くんがひよりちゃんに聞いている。

「ああ、も以前は禁止だったらしいのだが、昔この学校の先輩たちが『お弁当のを持ってくるのと何が違うのか? 後のだって禁止するのか?』と生徒会を動かして許可を勝ち取ったらしいのだ」

 ひよりちゃんがその話をした瞬間扉が開く。


 カラカラカラ ドンッ!


「なにを隠そう、そのルールを決めたのは私とみなもの2人よ。というわけじゃないけど多々良! バレンタインのチョコをあげる。あ、教員だから1000円以内とか守っていないけどいいわよね?」

 谷垣先生だった……もう、どこから話を聞いていたのやら。そんなこんなでみんなでチョコレートを食べて今日は解散した。


 夜……ちょうど泊まりに来る当番がしずくちゃんだったからチョコレートクリームを恭介くんに塗って舐めたりと大変だった。

 しずくちゃんのやりたい放題に巻き込まれて……恭介くんが「絶対逆~」って涙目になっていた。


 うう、チョコバナナがエッチって言っていた意味が分かっちゃったよ……もうお嫁にいけない。あ、恭介くんが貰ってくれるからいいのか。

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 ちょっとした小話


ひより「そういえば去年の……しずくちゃんたちは恭介にを渡せたのか?」

しずく「そうね……まだ入院中だったけどその頃には恭介さんの体調も回復して食事制限はなかったから1年5組の女子は結構渡してたわよ」

ひより「ああ、事故のトラウマの関連と性欲過多の男子として監視するために入院期間が長引いたんだったか……その頃知っていれば陽菜ちゃんより早く告白する可能性もあったんだろうか」(※注 陽菜より前にフラれています)

みお「あの頃の恭っちは下ネタを嬉々としてやり取りしてくれる男子って感じでクラスのみんなから人気だったから抜け駆けしたら反感が凄かったかもね」

まる「チロルチョコを渡してきょーちんと仲良くなろうとしたけど今と比べたらちょっと壁はあったんだよ」

ひより「複雑な時期だったんだな。陽菜ちゃんとは一番距離があった時期だったんだろう?」

陽菜「うう、『顔も見たくない』はトラウマものだったんだよ。もちろん勘違いとすれ違いって分かってるんだけど、今の恭介くんに言われたら立ち直れないよ」

恭介「その節は本当に申し訳ありませんでした」(土下座)

陽菜「いや、大丈夫だからね!? あの時の恭介くんがどれだけ傷ついていたか今は分かってるつもりだし。ああやって言われたこと自体はショックだったけど抱きついちゃったせいだと思って納得してたし」

恭介「陽菜……」(うるうる)

みお「結局その後、陽菜ちゃんの誕生日の6月までに完全にくっつかれちゃうんだから他の人にチャンスなんてなかったって」

恭介「いや、正直言ってみんなにはそれぞれすごく惹かれてたんだけどね……もしもなんて考えたくないけど陽菜がいないifがあったら、今年のバレンタインとか大変だったんじゃないかなって思うよ」

「「「「があったらホワイトデーにはだれを選ぶ? (恭介さん・恭介・恭っち・きょーちん)」」」」

陽菜「なんてないから!! みんなだって今の関係が気に入ってるんじゃないの?!」

「「「「そうだけど、2番目っていうポジション()だって気になる(のよ・のだ・しさ・んだよ)」」」」


という会話が放課後の教室で繰り広げられたとかられなかったとか。


次回更新は2/18を予定しています。

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