第236話 恭介くんと付き合えて本当に良かったね

 夜遅くにさちえさんが帰ってくることを忘れていた俺と陽菜は帰ってきたさちえさんに見つけられて真っ赤になっていた。

 二人で抱き合って眠っているところをがっつり見られてしまった。


 もちろんエッチなことなんてまだ全然してないし、しょっちゅう夢精している俺がむしろ安らいだ状態で寝ていたくらいで……この世界でたった二人で再び出会えた幼馴染俺と陽菜の眠りは本当に安らかだったんだけど、俺たち二人が抱き合って寝てるのを見たさちえさんはそれはすごい喜びようだった。

 手術の後に急に奥手になった自分の娘が想い人と結ばれたのだ。娘想いのさちえさんが喜ばないはずがない。


 嬉々として赤飯を炊く準備を始めるので(いつでも赤飯が炊けるようにもち米と小豆は常備してあったそうだ)それは明日にして貰って夜も遅いのでとにかく今日はさちえさんも休んでくださいとお願いした。

 誤解を解くのも大変そうだがとにかく今日は休んで貰おう。


 陽菜は「もうお母さんは」と言っていたが本当の親子のように仲がいい二人を見てなんだかほっこりした。

 この世界に来た陽菜がこれまで精神的に健やかに生きて来れたのは間違いなくさちえさんの愛情があったからで、折を見て俺たちがこの世界の本来の陽菜と恭介じゃないと伝えなくてはならないなと思った。


 もう一度陽菜と二人でベッドに横になって眠りにつく。

 本当にいいお母さんだねとさちえさんのことを褒めると、うんと陽菜が頷く。

 この世界に来てさちえさんには振り回されっぱなしだが、陽菜にとってはちょっと困るけど大好きなお母さんには違いないんだろう。

 そのまま、陽菜と抱き合うようにして眠ったら久しぶりに元の世界に置いてきてしまった自分の母親のことを夢で見て泣いてしまった。


 目が覚めると泣いている俺のことを抱きしめて陽菜も泣いていたので、多分俺が何か寝言を言ってしまったらしい。起きたらきちんと俺がこっちの世界に来た時のことを話さないとな……そう思いながら陽菜の胸に包まれてもう一度眠りに落ちた。




 朝起きてさちえさんにおはようの挨拶もそこそこに陽菜と付き合い始めたことを告げる。

「おめでとう。陽菜ちゃん……ずっと好きだった恭介くんと付き合えて本当に良かったね」

 ちょっと涙ぐんでる。それにさちえさんの俺への呼び方が恭ちゃんから恭介くんに戻ってる?


「ちょっと気が早いけど、私のことをお義母さんって呼んでくれていいからね、恭介くん」

 ん? なんかお母さんの漢字が違う気がする。なんだろう、元の世界のエロマンガで義父に寝取られる息子の嫁のイメージが頭をよぎって背筋がゾクッとしたぞ!?

「さ、さちえさんはさちえさんだから。これからもよろしくお願いします」

「お母さんが変なことをしたら今度からは今まで以上に本気で怒るからね」

 あ、陽菜の威嚇が可愛すぎてさちえさんに捕まって抱きしめられてる。さちえさん相手だと陽菜に助けてもらうのは厳しそうだなぁ……頑張って自衛しよう。


 陽菜の部屋に戻ってまたベッドに戻る。何をするわけでもなくベッドの上で向き合うようにしてお互いのことを話していく。二人で枕に寝たまま話をしているけどこういうのもピロートークというのだろうか。


 俺の話の方は重くなるので後に回してもらって、陽菜がこっちに来てからの話を聞く。そういえば、陽菜の肉食疑惑ですが完全な俺の誤解でした。

 昨日の俺とのキスがファーストキスの完全な乙女でした。変な妄想をたくさんしてゴメンなさい。

 陽菜に俺が陽菜のことを心の中で超獣娘とか師匠って呼んでめちゃくちゃエッチな子だと思っていたと伝えたらプンスコ怒られました。

「そんなエッチな子じゃないもん!」

 怒り方まで可愛かったけど一生懸命謝りました。


 その後、陽菜がいなくなってからの元の世界のことを話す。陽菜が心臓移植で人格が変わっていたんじゃないと思っていたこと。今考えるとこちらの世界にいたヒナが陽菜の体に入れ替わったって分かる。そう思うとヒナが俺の「に戻ってくれ」という言葉でどれだけ傷ついて嫌な思いをさせたかが理解できてしまった。

 ヒナの貞操観念が一般的な女子と違ってしまっていたことも魂の入れ替わりのせいだ貞操逆転世界の人間だったからと分かる。

 俺の中でヒナに関して誤解していたことが沢山あった事を知ると、その事実の重さでヒナにもう一度会って謝りたいと思ってしまう……叶わない願いだけど……ヒナには元の世界で生き延びて幸せになって欲しいと思う。


 俺がこちらの世界に来た最後の一日については詳細に語っていく。

 ヒナとの別れと俺の最後を聞いて陽菜は泣きながら抱きしめてくれた。陽菜の中では自分とヒナは別人ということがしっかり客観視出来ているようだ。

 ただ、自分がヒナと入れ替わってしまったことで本当の母親である向こうの世界のさちえさんが苦しんでいなければいいと願っていた。

 そして俺たちは多分元の世界に残された俺の抜けた体にこちらの世界の多々良恭介は入っていないんじゃないかと想像している。入れ替わるためには生きたいという強い意志を持つ必要があるというのが俺と陽菜の立てた仮説だから。

 もし本当にそうなら俺がいなくなった元の世界で残された俺の両親や周りの人たち、そしてヒナは俺の死を悲しんでくれたんだろうと思う。

 こちらの世界の陽菜はそういうみんなの幸せを祈ってくれた。


 世界間での魂の入れ替わりが同時に死にかけている本人同士の一組の間でしか起こらないと考えるとそんなことが起こる確率は想像もできないほど低いだろうし、これから俺たちの周りでもう一度起こる可能性など限りなくゼロに近いだろう。

 そんな中で陽菜と俺がこの貞操逆転世界で出会えた奇跡を大切にしてこれからの人生をこの世界で二人で生きていこうと誓った。


「陽菜、幸せになろう。小学生の頃のプロポーズ覚えてる?」

「忘れるわけないよ、ずっと心の支えだったから」

 ぎゅぅ……二人で抱き合う。今の俺たちに言葉は必要なかった。

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小学校6年生の時の恭介のプロポーズの言葉

「陽菜が元気になったら結婚しよう」

病気で寝込む日が増えていた陽菜を力づけるための言葉でした。


 次回最終回!



 本日15時の更新となります

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