第223話 会場中に響き渡るような大きな声
石動は強い。万全の状態の
ゆうき達3人が攪乱してこちらがただの素人集団ではないと警戒させてくれたのと十分に疲れさせてくれていたおかげで石動が速攻に来なかったから相手の剣筋を見る余裕があった。剣先が見えないほど早い小烏にいつも稽古をつけて貰っていたから石動の体の動きが、竹刀さばきが目で追える。
だけど、それだけだった。隙が全く見つけられない。打ち合ってはこっちが隙を作り打ち込まれ、見えているからどうにか一本を取られないように紙一重で有効打突を躱すだけ。
もう全身打たれまくってボロボロだ。
何度も打たれたためか面の紐がほどけてタイムを取られる。面紐を付け直しながらチームで並んでいる小烏を見る。
小烏はもうまともに座ることさえできなのに目が死んでいない。俺が負けないように応援してくれている。
だけど……もし俺が引き分けたら小烏があの足でもう一度ここに立つのか? 準優勝は立派な成績じゃないか……素人4人を率いて準優勝を果たした小烏、28人抜きして最後は引き分けで負けなしの小烏のことを評価しないやつなんて一人もいないだろう。
そう思うと力抜けた。残り時間はほとんど残っていないだろうし、負けたっていいんだ。そうだよな。
開始線に戻り試合が再開する。その瞬間
「恭介くんっ! 負けちゃだめぇぇぇえっっ!!」
振り返らなくても分かる俺の大好きな陽菜の声。あんなに体が弱くて俺の後ろに引っ込んでいた女の子が会場中に響き渡るような大きな声を出している。フフッ、あんなに大きな声を出したら後で怒られても知らないぞ。
なんで負けてもいいなんて一瞬でも思えたんだろう。俺のことをあんなに応援してくれている女の子が、大好きな女の子が見てるのに。あの子に惚れさせるって、カッコいいところを見せるって誓ったんだろっ!!
「ハァァァァァァァァツッッ!!!!」
大きな声を上げて気合を入れる。肺活量には自信がある。こっちは水泳部なのだ。
一瞬、俺の気合いの声に石動に隙が見えた。その瞬間体が自然に動く。
「ツキィィィィィッ!」
トッ!
練習でも出来たことのないほどの完璧な手ごたえ。俺が理想とする、世界で一番カッコよくて強い女の子の得意技。真剣での動きも一瞬も瞬きせずに見つめた世界で一番強くて速い突き。頭の中で何万回、何十万回と思い起こしてきた動き。
「突きありぃ!」
旗が上がる。えっ!? 俺が一本取った?
呆然としたまま開始線へ。開始の合図と同時に時間が切れて俺の一本勝ちが決まった。
どわぁぁぁぁっ!!! 会場中が割れるように沸く。
小烏道場が竜王旗剣道大会に優勝した瞬間だった。
「恭介、ありがとう。私たちの優勝だ」
石動との礼が終わってみんなの元に戻ると歩くのも痛いはずなのに小烏が飛びついてきた。二人揃って試合場の床に倒れる。そのまま小烏にぎゅぅっと抱きしめられる。
防具をつけたままの俺を抱きしめながら小烏が泣いている。本当に俺の刀剣女士は涙もろいな。
小手をつけたままの右手で小烏の頭を撫でてやる。
「ほら、剣道は礼に終わるんだろ」
そう言いながら立たせてやり肩を貸す。こちらの状況を見て小烏を支えたまま最後の礼をすることを許されたので5人で並んで石動たち大学生チームと礼をする。
石動がニカッと笑って話しかけてくる。
「男に
終わってみると怪物みたいに見えた石動もいいやつだった。
「多々良恭介。こっちこそ生まれて初めてあんなに気持ちいい突きをさせてもらった。ありがとう」
「ああ、よければまた声をかけてくれ。アンタとなら何度でも手合わせしてみたい。もちろん今日は
そう言って俺と小烏に握手を求める。
握手の時に石動が俺の手を握って真っ赤になっていたのは試合の疲れのせいだよな。
-----------------------------------------------
今さらフラグは立ちません!
戦力比較
参考 多々良恭介 身長176㎝ 1*cm(可変 最大でも20㎝以下)
本日1日3話公開
毎日朝6時と昼12時夕方18時に最新話公開中
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます