第222話 大将戦の引き分けはどうなる(陽菜視点)

 4分間ってこんなに長かったっけ?

 さっきから試合場では恭介くんが何回も何回も相手の大きな女子選手から打ちすえられている。

 石動いするぎさんはすごく強くて、いくら一生懸命練習したって言っても恭介くんじゃ手も足も出ないみたい。

 ただ恭介くんは石動いするぎさんの攻撃が見えているみたいで面への攻撃をとっさに頭をよけて肩で受けたり、薙ぎ払うような胴へ一撃を肘を出して防いだりしている。


 ドスッ 


 今回も突きを体を捻るようにして無理矢理躱したために肩に竹刀の先が刺さって二三歩後ろに下がっている。

 竹刀で何度も打ちあって恭介くんに隙が出来ると打ち込まれて、それを必死で有効打突にせずに逃げ続けている状態。


 何度も何度も叩かれて、恭介くんが苦しんでるのが分かるから本当はもう見ていたくない。

 でも恭介くんは諦めてない。それにその恭介くんをじっと見つめるチームのみんなも。だから私も目をそらさない。

 私はそばで見つめてあげることさえできないけど応援する気持ちだけは負けられないから。恭介くんのためだけのチアガールだから。


 試合開始からもう3分が経過している。あと1分間恭介くんが一本を取られないまま粘ったらこの試合は引き分けになる。

 大将戦の引き分けはどうなるって言っていたっけ? あ、代表戦とかいってチームの一人がもう一回試合するんだったっけ。

 私は思わずひよりちゃんを見る。足が痛く正座することも出来ないのだろう。膝を崩して手を床につくように座り込んでいる。だけど私から見えるその後ろ姿には諦めている気配はない。


 恭介くんに勝ってほしい、負けないで欲しいという強い願いを抱いているのが伝わってくる。

 そして恭介くんが引き分けに持ち込めればひよりちゃんはもう一度竹刀を握るのだろう。もうまともに歩けない脚だとしても竹刀を構えるだろう。

 恭介くん、勝って。ひよりちゃんのためにも負けないで。


「待て! 」恭介くんの面の紐が解けて直すように言われている。恭介くんが下がって面紐を付け直さないといけない。

 面紐を結び直す間に恭介くんがひよりちゃんの方を見る。なんだか力が抜けた?


「始め!」開始線に戻った恭介くんの背中からさっきまでの気迫を感じない。試合時間はあと30秒もないと思う。あと30秒で引き分け……あ、引き分けたらひよりちゃんがもう一度戦わなくちゃいけないと思ってもう負けてもいいって……


「恭介くんっ! 負けちゃだめぇぇぇえっっ!!」


 思わず大きな声で叫んでしまっていた。静かにみんなが観戦している会場で大きな声を上げた私のことを沢山の人が注目している。

 だけど私は恭介くんの背中しか見ていない。見えていない。

 グィッっと恭介くんが胸を張って一回り背中が大きくなった。私の大好きな背中が戻ってきた。


「ハァァァァァァァァツッッ!!!!」


 恭介くんの気合の声。水泳で鍛えた肺活量で会場全体がビリビリ震えてるみたいに感じる。

 一瞬、ほんの一瞬だけどそれまでになかった気迫で石動いするぎさんが気圧けおされる。


「ツキィィィィィッ!」

 トッ!


「突きありぃ!」

 旗が上がる! ひよりちゃんそっくりの突きで恭介くんが一本を取った瞬間だった。

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