第219話 逆手にとって突きをフェイントに組み込む

 しずくが陽菜に「陽菜ちゃんはハレンチ!」とツッコミを入れていたが気持ちはめちゃくちゃよく分かった。真面目な剣道会場の中をチアガール姿の陽菜が会場の周りをうろちょろ移動していたり俺たちの応援のために一生懸命可愛い握りこぶしを作っているのを見るとついつい目で追ってしまうのだ。

 それもこれも陽菜が可愛すぎるせいだろう。つまり陽菜がハレンチなのが悪い!


 もちろん大会は真面目に参加しているよ。でも俺は今回はチームの大将。みんなが負けて最後に登場するのだ。

 剣道の団体戦の場合、総当たり戦なら大将まで出番があるが、勝ち抜き戦だとチームの四人目まで負けない限りは俺に出番はない。

 先鋒小烏こがらす、次鋒ゆうき、中堅丸川、副将藤岡、大将多々良のオーダーで提出しているので何かない限りはこのまま決勝までいくことになる。


 そんなこんなで結構暇なのだ。いや、本当に。だって剣道って声を出しての応援も基本的にできないのだ。

 チーム戦でも試合場コートで戦っている最中は一人きり、一対一で相手と対峙して切り結ぶ。それが剣の道であり心だから、心の中でだけ応援してくれとひよりに言われている。


 あ、また勝った。小烏が順調に勝ち抜いていって4回戦の副将まで一人で抜いてしまう。

 これで19人抜き。今相手をしているチームは大学生の男女混成チームだから大学生の男子にまで勝っている。

 大会が始まったばかりの1回戦、2回戦頃と違い小烏が打ち合う回数が増えてきている。最初は相手のレベルも低く崩しを使うまでもなくただ相手の面を打ったり、胴をに打ち込んで一本を取っていた。しかし、小烏が勝ち進めば小烏の評価が高まる。マークもきつくなる。


 もともと刀剣女士の小烏こがらすひよりと言えばこの会場で知れぬものはいないかもしれないくらいの有名人だ。

 そして、小烏の太刀筋でもっとも有名なもの、それが春先の桜祭りで披露した真剣を用いた剣舞で見せた「突き」だ。全ての人間の目を引き魅了するような美しい突き。

 あの剣筋はこの会場にいる剣道家なら全員一度は見ているだろうと思う。

 そして昼休みの時点で藤岡が解析してくれたが、今日あの動画に対して一番アクセスが多いのが竜王旗剣道大会があるこの地域なのだ。


 つまり、小烏の突きを警戒して皆が小烏の動画を見ているのだ。こちらは良くも悪くも手の内を晒して戦っている。

 その小烏は今、皆から技を盗まれているハンディを逆手にとって突きをフェイントに組み込むことで面や胴につなげている。

 ここまで小烏の試合で突きで一本決めた試合はない。この大会、相手が中学生の場合は突き禁止のルールがあるが、そうでなけれ高校生以上ならばもちろん有効打突としての突きは使用可能だ。

 小烏は未だにその牙を一本残して戦っているのだ。


「メーーーーーーンッッ!!」

 パァァァンッ!


「面あり!勝負有り!」

 白い旗が上がる。20人抜き達成。

 陽菜が声を出しちゃダメと言い含められているのでチアガールの格好でポンポンを持ってピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。

 あ、係員の人に叱られた。目立ちすぎて叱られてしょんぼりしている陽菜が可愛い。


 一礼した後で荒い息を整えながら小烏が俺たちの元へ戻ってくる。団体の5人で並んで相手と挨拶して試合場から降りる。隣の会場でも大将が相手の選手を吹き飛ばして一本取ったところだった。

 とんでもない破壊力の突き! 小烏の突きが一点で突き刺さるような突きなら一撃で全てを吹き飛ばすような突き。防具の上からとはいえ喉元を突かれて吹き飛ばされた方の選手がゲホゲホとえずいている。

 20人抜きした小烏に見せつけるように小烏の得意技の突きで勝ってみせたのだろうか? 腰についているたれについている名札を見ると「石動いするぎ」と刺繍されていた。

 背の高い小烏よりもさらに長身の上、横幅で言えば1.5倍くらいありそうな巨体。面を外すと金色に染めた短髪の頭で鋭い目つきの女性で小烏の方を睨みつけてきた。


 優勝までは準決勝と決勝を残すのみで、あと10人だ。だがここまでとは比べ物にならないほどレベルが高い選手と層の厚いチームが残っている。

 今の試合に勝った石動石動も気になるし、しずくと陽菜と合流して一度情報交換しよう。

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 カクヨムに投稿を開始して今日でちょうど2か月でした。

 2か月でラストが見えるところまで来れて嬉しいです。もうちょっと剣道大会にお付き合いください。


 本日1日3話公開

 毎日朝6時と昼12時夕方18時に最新話公開中

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