第217話 その母にしてこの娘ありって感じだな

「頭を上げて下さい。俺の方こそ初めて会った時……じゃなくて退院して久しぶりに会った小烏こがらすさんの言葉で救われたんです。

 あの時感じた気持ちを返すために小烏さんに付き合って来ただけで、本当に全部これまでのことは小烏さん自身の力と魅力の賜物たまものですから」


 頭を下げてくる小烏の親父さんに慌てて言い募る。言っている内容は俺の本当の気持ちだ。あの頃、入院中から体を鍛えていた俺のことを一番初めに認めて褒めてくれたのが小烏だった。

 下ネタが面白いとか、筋トレを頑張っているとかじゃなくて元の世界で鍛えてきた内面も含めて全てを包むように肯定してくれて俺を認めてくれたのが小烏だった。


 確かにプロポーズじみた言葉とか子種とかのとんでも発言はあったが、それでも元の世界で幼馴染ヒナを寝取られて男としての自信を失っていた俺のことを認めてくれて本当の意味で男として欲しがってくれた。

 そのことが嬉しくて俺は小烏に一目惚れならぬ一言惚ひとことぼれをしたのだ。

 だから小烏への恩返しになるならと、そして自分が小烏の気持ちに応えられないからその代わりになるならと全力で小烏道場の再建に取り組んできたのだ。


「ちょ、恭介!? 何を言って……」

 小烏が顔を真っ赤にして抗議してくるが、今は小烏に取り合わない。小烏の右手をギュッと握りながら親父さんに宣言する。

「もし今回の大会で小烏がある程度の成績を示せたら、これからの道場での指導に小烏の意見を取り入れてやってください。小烏は絶対にこの道場を発展させますから」

「そこには君も付いていてくれるのか?」

 親父さんは俺と小烏の繋いだ手を見つめながら聞いてくる。

「俺は刀剣女士・小烏ひよりのプロデューサーですから」

 今の俺に答えられる間違いない答えを返す。


「分かった。この大会で成績を出して見せてくれ。ひより、頑張れよ。お前は母さんの娘だ。自分の力を信じろ」

「はいっ!」

 その後はみんなで黙々と荷物を積み込んでちさと先生の運転で高速道路へ。ここから三時間は先生の運転でドライブだ。

 助手席には小烏を座らせた。


「ふふん、小烏の顔真っ赤だったな。まあ生徒としての小烏はいつでも可愛いが、女子としても可愛いところがあるじゃないか?」

「先生、生徒をそうやってからかうのは良くないと思うぞ」

「ひよりの親父さんもいいお父さんじゃないか。ところでひより、ひよりのお母さんってひょっとして強かったのか?」

「ああ、若い頃は国体でも優勝したことがあったらしい。うちの父親はその母の剣術に魅せられて婿入りした形だな。当時は小烏道場の一人娘・剣術小町として剣道雑誌で特集が組まれていたりしたらしいぞ」

 その母にしてこの娘ありって感じだな。


「母が病気で早世していなければ小烏道場の現状は全く違っただろうというのが父の口癖だった。

 だからこそ父が道場の先行きを諦めているのがもどかしかったのだ。私は父の剣を見て育った。もっとも父の中に母の剣が生きていたから父に言わせると私の剣は母の剣の生き写しらしいがな」

 どこか自嘲気味言う小烏を後ろの席からシートごと抱きしめるようにして言う。


「ひより、お前の剣はお前だけの剣だよ。

 親父さんとお母さんの両方から受け継いだお前の剣が俺は好きだし、俺と出会ってからもお前の太刀筋はどんどん変わってきてる。一番そばで見てる俺が言うんだから信じてほしい。

 ひよりだけの剣道を、ひよりの剣術を今回の大会でも見せてくれ」

 耳元で囁くように告げる。小烏が少しでも自分の剣に自信を持てるように、俺の信じる言葉を伝える。


「ゴホン……えっと、わたしがいることを忘れてない、お二人さん? 運転中に生徒がイチャついてるところなんて見せつけられたら先生肩こりが酷くなって高速道路で急ハンドル切っちゃうかも」

 アホな担任教師に茶々を入れられて真っ赤になりながら俺はちさと先生の肩もみをさせられたのだった。

 いつか男子生徒への肩もみ強要で教育委員会に訴えてやる。

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 次話より剣道大会始まります。

 剣道の描写で勘違いなどあれば全て作者の責任です。コメント欄で教えていただければストーリーの根幹にかかわらない限り訂正したいと思いますのでよろしくお願いします。


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