第173話 温かいココアを入れておこう(陽菜視点)
…………
「陽菜っ!!」
濡れて透けちゃったTシャツを着替えてきて脱衣所に戻って来たら浴室から切ないようなもどかしいような響きの恭介くんの声で名前を呼ばれた。
恭介くんがシャワーを終える前にタオルを準備しようと思って気にさせないようにこっそり入ってきたのにいきなり呼びかけられてビックリする。
それになんだか苦しそうな声での呼びかけだったからあわてて答える。
「なに、恭介くん。大丈夫なの?」
私が声をかけるとドンッ!ドサッ、ゴロゴロッ! と浴室の中で大きな音がしてシャンプーなんかが置いてある棚からいろんなものが落っこちた音がする。
大変!? 私が声をかけたせいで恭介くんがこけちゃった? シャンプーとかがぶつかっちゃったかも?
ドンドンドンドン!
「大丈夫? 恭介くん……ここを開けて」
浴室は一応内側から鍵が掛けられるようになっているから半透明で中が見えないようになっている扉をたたく。
「だ、大丈夫だから……すぐに落ち着くから待ってて」
恭介くんの声、元気というのとはちょっと違うような気がするけど大丈夫っぽい。
ちょっとだけほっとして仕切りの扉を叩くのを止めて恭介くんに声をかける。
「恭介くん、ここにタオルを置いておくから。出てきたら私の部屋じゃなくてリビングの方に来てもらっていい?」
温かいココアを入れておこう。冷たい水をかけたりはしていないけど腋毛を剃ってる間寒かったのかもしれない。
それにしても恭介くんに腋毛を剃ってくれって頼まれてからとんでもなく大変な時間だった気がする。
初めてのキスがほっぺたで、二回目のキスが腋とか……うう……焦っていたとはなんてことを……でもでも人工呼吸はキスじゃないって聞いたことがあるような気がするし今回のもケガの治療だからきっとキスじゃない。うんきっとそうだ。
次のキスは絶対お口にするんだから……と思いだしたところでさっき恭介くんから正面から顔をグイってされてシャワーのお水を飲まされた時のことを思いだす。
力強くて私の口をグイッって開いて中まで確認された。あの時恭介くんがキスするつもりだったら……真摯な恭介くんはそんなことしないけどキスに抵抗出来る自信はなかった。うわぁってなって頭の中がグルグルする。
グルグルしたらとんでもないことを口走ったのを思い出しちゃった! わ、私最大級の爆弾を放り込んで自爆した。
ボン〇ーマンというゲームで恭ちゃんと遊んだことを思い出す。私はヘタッピで恭ちゃんをやっつけるつもりでよく二人とも爆風に巻き込まれて仲良く自爆していた。
今日も自分で足元に爆弾を置いて恭介くんまで巻き込んで爆発させちゃった。
うう……恭介くんさっき転んだ拍子に頭を打って私の毛に関する記憶をなくしてくれてないかな……こんな子供みたいな体だと恭介くんは興奮してくれないかも……
あ、持続勃起症だから……って違うから!! もうダメ~頭がグルグルしてフットーしそうだよ~
もう恭介くんがシャワーから出てきちゃうのに!
それから10分ほどして制服を着た恭介くんが出てきた。なぜかあの後、冷水でシャワーを浴びていたらしく冷え切っていた。
ビックリして頭がグルグルしていたのが一瞬で冷静になっちゃった。
「なんで冷水でシャワーを浴びてるの!?」
「頭を冷やしたくて」
赤い顔をして答える恭介くん。風邪をひいちゃったとかじゃないよね?
椅子に座ってココアの入ったマグカップを抱えるようにしてちびちび飲んでいる恭介くんがなんだか可愛い。二人になったら私もちょっと落ち着いた。
だけどお互いに言葉は交わせない。リビングには何を言っても自爆しそうなボン〇ーマンが二人きり。
ガチャッ!
「ただいま~、あら、恭ちゃんが来てるの? だったら私も呼んでくれたらよかったのに」
お母さんが帰ってきてしまった。
「あら? 恭ちゃんシャワー浴びたの? クンクン……陽菜と同じ匂いがする。クンクン……これって」
最初のクンクンは頭を嗅いで、二回目のクンクンは股間の辺りを嗅いでいる。本当にやめて欲しい。
恭介くんの髪の毛が濡れてるし私のシャンプーを使ってもらったからこれって
「ひょっとして、今日はお
「いいから、何でもないから」
お母さんを無理やりリビングから押し出しながら恭介くんに話しかける。
「ゴメンね、恭介くん。いっぱい失敗しちゃって、また明日朝一緒にランニングしようね」
コクリと一回頷くと恭介くんは「じゃあまた明日」と小さい声で言って帰っていった。
ちょと元気がない後ろ姿に元気にしてあげたいって思った。
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元気になり過ぎた結果ぇ……
次回から元気に2年生編スタート!
本日1日3話公開
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