第164話 恭介さん、今日は一緒に走らせて
朝7時のランニングの時間。
家の庭でストレッチしていると陽菜の家の扉が開く。
「おはよう陽菜……ええっ!?」
出てきた陽菜に挨拶しようとすると後ろからぞろぞろと続いて出てくる。
岩清水、
小烏だけはいつもの白い道着に紺袴だが、他の皆は高校のジャージだったりスポーツメーカーのジャージだったり。丸川はなぜか体操服に短パンで、さちえさんは体操服に紺色のブルマだった。
いや、みんなの格好はいいのだ。それぞれ似合ってると思うし。
昨日の午後、家に帰ってきたら陽菜から「カーテンを閉めて」というメッセージがきたり珍しい料理がおすそ分けで届いたり、何より藤岡が異常に俺の部屋のカーテンにこだわったり陽菜の部屋の電気が遅くまでついていたりいろいろと気になるところが多く、陽菜の家に誰かが来てるんだろうなと思っていたがみんな陽菜の部屋にいたってことだったわけだ。
藤岡のことだから俺の部屋を盗撮しようとして陽菜に止められてたってところだろう。
「恭介くんおはよう。ビックリした? 昨日みんながうちに泊まってくれて朝のランニングで驚かせようって内緒にしていたの」
「恭介さん、今日は一緒に走らせて。ついていけなくて遅れるようなら自分たちのペースで走るから」
「恭介と走ることが出来るなんて楽しみだ。いつも通りのペースでいいからな」
「まるは短距離は得意だけど長距離はあんまり好きじゃないんだよ、疲れたらおんぶして欲しいんだよ」
「あ、ズルいよまるっち、恭っちおんぶ。あーしもう疲れた」
「恭ちゃんと一緒に走れるなんて、女子高生に戻ったみたいで楽しいわ」
走る前から疲れたとか言っているギャルは家に帰った方が良いのではないだろうか。
朝から時間がかかりそうなメイクをバッチリ決めてるから寝不足で疲れてるんじゃないか?
家の前わいわい騒でいるのはご近所迷惑だから話もそこそこに走ることにする。
陽菜は5㎞を走るのは無理だろうからいつもの自転車で。他のメンバーは俺と一緒にランニングだ。
一団になってスタートしたが、スタート直後から隊列はどんどん長くなっている。先頭俺と小烏、すぐ後ろに自転車の陽菜、マイペースで岩清水、最初だけ飛ばしてあとはのんびりペースの丸川、意外とついて来てるさちえさん、マジでおんぶした方がよさそうな藤岡。
いつもの桜公園まで2.5㎞、往復5㎞だから帰り道の途中で藤岡を回収してやろう。あれ、回収するって俺がおんぶしなきゃいけないの?
タッ タッ タッ タッ タッ
「なかなかいい速度で走るんだな。良く鍛えてるみたいで感心したぞ」
俺のペースに合わせて少し抜き気味で走っている小烏に褒められる。余裕を残してるやつに言われてもなぁ。
桜公園までたどり着けたのは結局、俺、小烏、委員長の三人と自転車の陽菜だけで後のメンバーを待つよりも戻ってピックアップした方が早いので休憩もそこそこで切り上げて藤岡たちを回収に向かった。
結局公園からの帰り道、藤岡を背負ったのは俺よりも体力的に余裕があった小烏だった。
背負った状態で俺のペースに合わせて走るのは藤岡に酷だったので、俺も小烏もペースを落として走って帰っている。藤岡が死んでもいいなら本気の小烏は元のペースで走れるみたいだ。
このペースならどうにか岩清水がついてきている。
帰り道の陽菜は自転車で現在一番後ろを走ることになっているさちえさんと丸川を応援している。
小烏が少し遅れて俺と岩清水と二人きりで走っているタイミングで岩清水が声をかけてきた。
「昨日の陽菜ちゃんとっても素直で可愛かったよ。恭介くんはまだ陽菜ちゃんと恋人ってわけじゃなかったんだね」
「ああ、そういう風に見えてたか? もし俺が誰かと付き合うことになったらしずくたちにはきちんと報告する。いろいろして貰ってるのに黙ってるなんて不誠実なことはしないから」
「それは私にもまだチャンスがあるって考えていいの? 期待を持たせると勘違いしちゃうよ。私だって女の子なんだからね」
走っているからか赤い顔をしてそんなことを告げてくる委員長。
「少なくともしずくに好意は持ってるよ。これがすぐに恋とか付き合うって話になるかは別だけど」
「じゃ、じゃあ私が陽菜ちゃんの代わりにじぞ……」
そこまで話したところで藤岡を背負ったままの
俺たち二人が話に夢中だったせいでペースが落ちていたらしい。
「何か言いかけたか、しずく?」
「ううん……何でもない。また今度話すね。みおちゃん大丈夫? それにひよりちゃんも真っ赤だよ? 恭介くんに代わってもらう?」
「うう……しずくちゃん、何でもないからそれ以上聞かないでくれ、大丈夫だから」
「……」
小烏は真っ赤で藤岡は屍のようだ。俺たちと合流する前に何があった?
いつもの何倍もにぎやかなランニングになった。
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ちょっとした小話
「うう、ごめんよ。ひよりっち、背負って貰っちゃって」
「気にするな、ふじお……みおちゃ……みおにはいつも世話になっている」
「あれあれ~、ひよりっちひょっとして寝る前のこと覚えているの~?」
「せ、せっかく友達と名前で呼び合えるようになったのだ。忘れるわけがないだろう」
「可愛いかよ! せっかくだから私のことも「みおちゃん」って呼んで欲しいなぁ」
「私のこと「も」とはどういう意味だ」
「どういう意味もなにもこういう感じでさ」
おんぶされたままスマホを取り出し、手を伸ばして走ってるひよりの前で再生ボタンを押す。
『えへへへ~、陽菜ちゃんのおっぱい柔らかい。むにゅぅ』
「な、なんだこれは!?」
「昨日のひよりっち。ね、あーしのこともみおちゃんでいいんだかんね」
「いますぐその録画を消せ~! 消さねば切る! お前を殺して私も死ぬ」
という会話が合流前に繰り広げられたとかなかったとか。
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