第144話 恭ちゃんは今から車で迎えに行くから
「信頼している恋人に処理して貰っているから大丈夫」の一点張りで乗り切った。
右手が恋人、嘘はついてない。
委員長が恋人と聞いてショックを受けた顔をしているのが申し訳ないがここで
恩がある委員長には悪いがここは涙をこらえて嘘をつきとおそう。
委員長には後でこっそり俺に恋人はいないという悲しい事実を伝えるつもりだが、この誤解をそのまま通すとどうなるだろう?
あ、ダメだ。弁当グループで委員長から陽菜に伝わって陽菜にも誤解される。陽菜は俺に恋人なんていなくて陽菜の写真で
後でちゃんと話して本当のことを伝えておこう。話したら話したで真面目な委員長のことだから俺の役に立とうとして暴走しそうで怖いけど。
琴乃刀自とはこれからもお世話になることもあるだろうから敵対関係になるつもりはないし、委員長のために琴乃刀自との関係はきちんと保っておきたい。
「それでは楽しいお茶の時間をありがとうございました。しずくもありがとう、美味しかったよ。今度はお茶の作法を教えて欲しいから二人の時にお茶に誘ってくれ」
別れの挨拶をする。すっかり長居してしまったのでこれから夜の花見の準備をしなくてはならない。
茶会の席をおいとました後、さちえさんに電話をかける。
プルルルルル……ガチャッ
『もしもし、恭ちゃん?』
あの俺が陽菜の家で持続勃起症をカミングアウトした日以来、さちえさんから俺への呼び方が恭ちゃんのままなんだが……この呼び方、昔の元の世界での幼い頃の陽菜を思い出してちょっと胸の奥が疼く。
郷愁ってやつなんだろうけど、元の世界で俺が一番好きだった頃の陽菜のことが思い浮かぶのだ。
わざとか知らないがだんだん「恭ちゃん」の発音があの頃の陽菜みたいに舌ったらずな感じになってるのは俺の反応を見ながら調整してる成果だろう。
「すいません、さちえさん。今まだ河川敷にいるんですけど荷物運びはどうすればいいんですか?」
『うん、パパが18時の電車で駅に着く予定なの。だから陽菜ちゃんに迎えに行って貰ってお花見の場所まで案内してもらうことになってるの。
恭ちゃんは今から車で迎えに行くから私と一緒に荷物を持って運ぶのを手伝って。男手き・た・いしてるから』
「場所取りは大丈夫なんですか?」
『もう手配済みだから大丈夫よ。もうちょっとで着くから車ですぐに拾えるように車道の方に出ておいてもらえる。あ、いたいた……お~い』
そこで電話が切れた。ちゃんとハンズフリーで話してたんだろうか?
すると目の前にさちえさんの運転する車が止まる。
助手席を開けて車に乗り込む。
夜寒くなることを想定してるのかベージュのコート姿のさちえさんが運転席でウインクした。
「今夜はいっぱい楽しもうね恭ちゃん」
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