第142話 祖母があちらで待っております
丸川にほっぺたにキスされた俺はそれでも遅刻しないように16時に茶会の席にたどり着いた。
ここは河川敷のはずれの大きな桜の木の下に作られた茶会席だ。
大きな台の上に赤色の布が敷いてあってその上に茶釜がしつらえてある席がいくつかあった。
会場について受付に行くと受付のそばにいた桜色の綺麗な着物を着た女性から声をかけられた。
「恭介さん、お待ちしておりました」
岩清水だった。お嬢様だとは思っていたが桜色の無地に家紋の入った着物を着て髪を結いあげている姿は俺の知っている委員長とは別人みたいで、正直焦ってしまう。
「どうしました? 恭介さんったらそんなに赤い顔をして……見惚れてくれてるんですか?」
すごく嬉しそうで悪戯っぽいのに優雅、なんだろうさっきまでのドキドキとは違うドキドキが凄い。
「あら、どうしました。頬にチョコレートがついていますよ。ひょっとして食べてる時に汚されたんですか? こちらへちょっと体を寄せて」
言われて少しかがむと懐から取り出した懐紙?か何かで右の頬を拭かれる。取れましたよの声に背筋を伸ばすも今度は別の意味でドキドキが止まらない。
丸川のやつ、チョコバナナで汚れた口のままキスしたからチョコレートでキスマーク付いちゃっていたじゃん! たまたま常識的にあり得ないから委員長にバレなかったけどこれバレてたらどうなったんだろう?
いや……俺はフリーなので何もやましいことはない……やましいことは……なんだか陽菜にゴメンなさいって気分になった。目の前の委員長にも。
「それでは祖母があちらで待っております。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」
「あ、ありがとう。俺はお茶の作法なんて全く分からないんだけど大丈夫なのか?」
「フフ、大丈夫ですよ。今日は一般の方も参加される
ちょっとだけ安心した。けど安心してイイのは俺が岩清水と二人っきりでお茶が出来ればという条件だったということを一瞬で思い知ることになる。
俺が案内された席には西園寺家の現当主、琴乃刀自が一人で座っていた。
俺のことをみると良く来たねとばかりにニヤリと笑う。
「さあ、席に座るといいさ。しずくの入れるお茶を楽しむといいよ」
ああ、この人がいるんだった。そうだよ。こんなの美味しくお茶を飲むだけで済むわけがなかったよ。
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