第138話 だから今日の俺は瞬きをしない
そこからの15分間は自分が息をしていたことさえ忘れていた。
自分が関係者であることも頭の中から一切消え去り、
自分のすべてが目になったようだった。
シャランッ……
最後の鈴の音の余韻が消えた瞬間、ドワァァァァ! 会場が揺れるほどの歓声が上がった。
みんな手が痛くないのかというほどの拍手で手を打ち鳴らしている。
奉納舞でスタンディングオベーションっておかしいだろうと思うが舞台の中央で
俺は大急ぎで舞台の四隅に二本ずつ、八本の巻き藁を立てていく。
そのまま小烏の目の前までにじる様に膝立ちで近寄ると小烏家の太刀、
俺が支える鞘から巫女姿のままの小烏がすらりと刀身を抜き取り、、刀身が光を反射する。
沸きに沸いていた会場が俺が準備を進めるにつれて口数が少なくなっていき、小烏が刀身を抜いた瞬間にまた完全に静まり返った。
舞台から降りる俺のことなど誰も見ていない……と思ったらどこからか視線を感じる。
振り返ると舞台から離れた客席で陽菜が胸の前でギュっと両手を祈るように握って俺のことだけをじっと見てくれていた。目が合うと頷いてくれる。
そこからの小烏は奉納舞を超えていた。剣舞は5分しか時間を取っていなかったがその間、舞台の上を縦横に使って剣の舞を披露し、要所要所でその真剣で立てられた巻き藁を袈裟懸けに切り落としていく。
圧巻は二本並んだ巻き藁を一振りで切り倒した時と、一瞬の間に巻き藁を二段切りしていたことだった。
小烏が最後に刀を正眼に構えて動きを止めると最後に俺の出番だ。
木刀を持った俺が小烏の正面に同じく正眼で立つ。丁度初めて小烏道場で初めて竹刀を握った時のように。
小烏を信じてギュっと木刀を握る。あの時は小烏の竹刀が全く見えなかったがそれはきっと俺が瞬きした刹那の隙を狙われたのだろう。
だから今日の俺は瞬きをしない。小烏の動きを少しでも感じたかった。
小烏が息を吸い、動いたっと思った瞬間には俺の手元の木刀は切り落とされ切っ先が俺の喉元に突き付けられていた。
そのあまりの剣技の冴えに誰もが俺たちが危険なことをしているという認識すらなく会場は今日一番の歓声と拍手で包まれた。
ふぅ……俺と
真剣を使ってやっていいパフォーマンスとは思えないからよく今日の許可が下りたものだ。神事として押し通してしまった琴乃刀自の剛腕はありがたい一方恐ろしくも感じた。
こうして
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