第134話 春休み中は学食はお休み
午前7時まであと5分、俺は自宅の前でストレッチをしながら陽菜を待っている。走る前の軽い準備運動。
毎日のトレーニングでずいぶんと体が軽くなってきているし筋肉がついてきたように感じる。
4月になったら水泳部で実際にプールが使えるようになるから泳げるようになる。
泳げば元の世界にいた俺と今の俺の実際のタイム差が出るわけで、当面の目標はあの頃の俺に追いつくことになるだろう。
こっちの世界の水泳の高校トップクラスがどのレベルにいるのかは分からないが、目標が自分というのは分かりやすくて気に入っている。
過去の自分に勝つ日が来ることを信じているし楽しみにしている。
ガチャ
陽菜の家の扉が開いて陽菜が出てきた。いつものように水筒などが入ったバッグを持って出てきて自転車の前かごに入れている。
「おはよう陽菜。俺のカメラも入れて貰える? そろそろ川沿いの桜公園の桜が見ごろになってきたから桜の写真をちゃんと撮りたいから」
そう言いながら耐衝撃のカメラバッグを自転車のカゴに入れて貰う。
「おはよう恭介くん。桜祭りも今週末だもんね。」
今日の陽菜は高校のジャージ姿だ。中学校のパツパツジャージもちょっとエッチで良かったけど、こういうちゃんとした格好も凄くイイ。結局陽菜ならなんでもイイまである。桜公園でモデルになって貰おう。
「よし、じゃあ今日も桜公園までランニング付き合ってくれ。行こう」
声を上げてから俺は走り出す。今日も身体は軽い。陽菜が見ていてくれると思うといくらでも力が湧きそうな気がする。
そして今桜公園で陽菜が出してくれた水筒で水分補給をしている。俺は気になっていたことを陽菜に聞いてみる。
「あのさ、気のせいかもしれないけど今日は陽菜の荷物いつもより多くないか?」
いつもの袋の膨らみが少し大きい気がしたのだ。最初に自転車に積み込むときに若干重そうだったし。
「あ、えっとね……えへへ……実は恭介くんに春休みの間もお弁当を作りたいって思っちゃって」
そう言って登校初日に持って来ていた大きめなお弁当箱を袋から取り出して俺に見せてくれる陽菜。
「家についたら渡そうかなって思っていたんだけどここで気付いてくれたからここでお話するね。
今日も明日も恭介くんは学校に行って水泳部と光画部でそれぞれトレーニングするんだよね?
お祭りの前日は神社で
春休み中は学食はお休みって聞いていたから菓子パンとかコンビニのお弁当じゃ持たないかなって思って。だから受け取って食べてくれると嬉しいな」
そう言って両手で突き出すようにしてお弁当袋を差し出してくる。
まるでラブレターを渡してくる女の子みたい。もっとも残念ながら俺の人生では一度もそんなシチュエーションに遭遇していないが……
「ありがとう陽菜。本当に嬉しい」
多分ラブレターと同じくらい愛情が込められているお弁当を俺は受け取った。
-----------------------------------------------
7/1,2は1日5話特別公開
6,9,12,15,18時の1日5話更新となります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます