第123話 岩清水が心の底から笑ってくれるなら

 陽菜がみんなを呼びに行っている間に、西園寺しずを名乗った岩清水に一応話をしておく。


「言っておくが一番最初からお前が名乗った西園寺しずが岩清水しずくだって分かっていたからな。だいたい最初にお前を追いかけていた黒服からして藤岡と丸川の二人だっただろ。

 あの時点でなんでこんなことをしてるんだろうと思って話を聞いたらお前が別人のフリをしたがっていたから、岩清水の相談に乗るために気付かないふりをしたんだよ。あそこで俺が何してるんだ委員長? みたいに聞いていたらこのお見合いの話を絶対打ち明けなかっただろ?」


「うう……全部バレてたんだ。ちょっと恥ずかしい。西園寺っていうのは分かってると思うけどお母さんの旧姓、ここにいるおばあちゃんが西園寺家の当主で琴乃おばあちゃん。

 私は一応おばあちゃんのところでお嬢様としてやっていけるように淑女としての嗜みっていうのを覚えさせられたけど結局これが素だから」

 そういってペロッと舌を出す。悪戯っぽいお嬢様の破壊力はバツグンだ。淑女の嗜みって元の世界だと帝王学ってやつのことじゃないだろうか。


「まあ、ヒントはそれ以外にも沢山あったしな。偽名を名乗ろうとして「西園寺」まで言った後、普通に「しずく」って続けそうになって「西園寺しず……」って濁したり。

 孫娘を可愛がる金持ちの祖母って存在がこの前の昼休みに岩清水が高価な最新型のiPhone14 Pro Maxを持たされたって言ってた話と合致していたし。

 スマホもケースなしのシルバーのiPhoneをそのまま使っていたりいろいろとボロが出まくっていたぞ。頭のいい岩清水らしくもない……本当は気付いて欲しかったんじゃないのか?」


 それと今年になってから同じクラスの男子を好きになった発言。

 自惚れるわけじゃないけど俺のことだよな? ……流石にこれは琴乃刀自がいる前で確認するのは憚られた。


「そっか、バレバレだったんだ……ちょっと悔しいけどなんだか嬉しいかな。メガネ外して化粧して髪型変えたら私って気付いてもらえないんだったらまるで私の本体がメガネみたいじゃない」

 マンガ銀魂みたいなことをいう。


「みおちゃんとまるちゃんの二人は今回私がお見合いをさせられるって聞いたら逃がしてあげるって言って協力してくれたの。

 月曜日の時点で多々良くんたちの土曜日の午後の予定が分かってたからお見合いを同じ土曜日の午後に設定して貰って、どうにか多々良くんと合流して一緒に逃げて貰ったら、彼氏が出来たんじゃないかっておばあちゃんが諦めてくれるかもって思って。

 しずくでお願いしたらきっと協力してくれるだろうけどなんだかうちの家の中のお見合いとかこういう話を知られたくなくて」

 そういう気持ちも分からなくもないから騙されたふりをして協力することにしたんだけどな。


「ところでお主、多々良恭介といったか、さっきからと孫のことを呼んでおるが私はその呼び方が気に入らないね。

 西園寺と呼んだら私と被るしこういう場合の呼び方ってものがあるんじゃないか?」

 え~……なにこのおばあちゃん、ひょっとしなくても孫の援護射撃をしてるつもりなのかな? ちょっと可愛いところがあるじゃないか。ここで空気を読まずに「委員長」って呼んだら話がこじれそうまであるな。


「えっと……それじゃあ、これからもよろしくな」

 頬をかきながら俺が告げると岩清水がすごく嬉しそうに顔をほころばせた。

 琴乃刀自にしてやられた気もするが岩清水が心の底から笑ってくれるなら負けるのも悪くないって思えた。


 ここから先の話では引くつもりは一切ないけどな。

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