第119話 一緒に手に手を取って逃げてみせれば
俺には他人の問題にいちいち口をはさむような趣味はない。ないんだけど今回のこれは見過ごしたらダメなんじゃないかと思った。
「お見合い相手ってどんな人なんですか? やっぱり学生さん?」
「それが……」
口ごもりつつ銀色のiphoneの画面に写真を表示してこちらに向けてくる。学生というには歳がいきすぎているしスーツを着ている姿から見て社会人だろう。
「この方なんですけど25歳で子持ちの
西園寺グループの中では出世頭でただ最近は奥様を亡くされて落ち込んでおられるそうで……」
しずさんは言葉を濁す。なんとなく構図は見えたがしずさんにとっては10歳年上の子連れ男性との婚約は好ましい状況ではないだろう。
この世界の結婚相手の男性はまず子作りが出来るかどうかという所にハードルがある。
薬や体外受精という手段があるものの、すでに亡くなった奥さんとの間に子供をもうけたことがあるというのは高評価のポイントだろう。
あとはまだ学生であるしずさんと学生を付き合わせたところで確実に出世コースに乗ってくれるとは限らないから孫を大切にしたい琴乃刀自としては真剣に選んだ上でのお見合い相手ではあるのだろう。
全く面白くない。こんなのしずさんの意思を全く無視してるじゃないか。
「それでしずさんはどうしたいんですか? お見合いをぶっ壊したい?」
「えっと……実は私には同じ学校に好きな人がいるんです。
私はお婆さまの孫娘としてお嬢様扱いされることはあっても小さな頃から普通の家庭で育ちました。
小学校、中学校、高校とお嬢様学校などではなく普通の共学の学校で過ごしてきたんです。そんな中で今年生まれて初めて好きな人が出来たんです。
今は同じクラスのその人のことが好きだから、諦めたくありません」
下を向いてちょっと赤い顔をして話していたしずさんが、最後の言葉は俺の目を見て話してくれた。しずさんの本気を感じる。
「だから、私は今日のお見合いが終わるまで逃げようかと思っていたんです。その……出来ればその……男性と一緒に手に手を取って逃げてみせれば好きな人や恋人がいると思わせることができてお婆さまも諦めてくれるんじゃないかと思って。
多々良様……本当に不躾なお願いなのは承知の上でお願いいたします。今からの3時間だけでいいのです。私と一緒に逃げて貰えないでしょうか?」
しずさんが真剣な表情で俺に告げる。彼女にとっては勇気を振り絞ってのお願いだろう。
「ゴメン、その望みは聞けないよ」俺が答えるとしずさんの表情が沈む。
お嬢様の沈んだ顔なんて見たくないから俺は言葉を続ける。
「だって、その方法だと次やまた次のお見合いがセッティングされてしずさんが折れるまで続くだけだろ?
だったら……お見合いをぶっ潰して二度と琴乃刀自がお見合い話を持って来ないようにしてやろうよ」
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