第118話 西園寺家がどのような家か分からない

 俺は白のワンピースのお嬢様と一緒に喫茶店に入っていた。

 さっきの黒服のこともあるし周りを確認しながら身を隠すために隠れ家的雰囲気のある喫茶店にさっと入店し店の奥の方、パーティションで見えない席側にお嬢様を座らせて自分は入口の方に視線を向けて誰か入ってきたらすぐに確認できるようにする。


 喫茶店に入って席に着いた時点で陽菜のスマホにメッセージを送る。

「用事が出来てAUショップから離れた場所にいる。契約が終わってショップを出たら連絡貰えると助かる」

 今ごろSIMカードの入れ替えでもしているだろうから、新しいスマホが通信できるようになったらその時点で受信するし大丈夫だろう。

 小烏こがらすも一緒にいるはずだからそこまで心配する必要はないと思うが。


 頼んでいた二人分のコーヒーを持ってきたウェイトレスさんが離れていったところで口を開く。


「俺の名前は多々良恭介と言います。高校一年生です。

 いったいなんで追われるようなことになっていたんですか? 俺で力になれることがあれば協力するんで話せる範囲で話してもらえませんか?」

 生徒手帳と学生証を提示したうえで俺が名乗って質問すると、お嬢様はちょっと驚いたような顔をした。


 あ、この貞操逆転世界だと男の方が狙われやすい立場だから普通は男の方がリードして名前を名乗ったりしないのか。一方的に不利になるもんな。

 元いた世界だったこの状況で女性からこうやって名乗ることってなさそうだし。相手を安心させようと演技した結果逆に不審がらせちゃったか?


「いえ、私の方こそ気をかけていただいてありがとうございます。

 私の名前は西園寺さいおんじしず……ご存じかどうかは分かりませんが、西園寺家に連なるものになります。

 今回私が追われていた理由なのですが、私が望んでいないお見合いをさせられることになりまして、私もまだ高校生なのに早すぎると伝えたのですが祖母の方がとにかく見合いをするだけだからと言って聞いてくれなくて」


 お嬢様……名乗って貰ったのだからここからは「しずさん」と呼ぶことにする。

「しずさん、すみません。不勉強で西園寺家がどのような家か分からないんで教えてもらえると嬉しいんですが」


「ああ、すみません。高校生くらいだとあんまりご存じないかもしれないですね。この辺りの大地主から初めて事業を起こして土地の名士として有名な一族なのです」

 ふ~ん、知らなかったな。俺が聞いたことがないってことはこっちの世界だけで有名な一族なのか、それとも元の世界でも有名だった一族でたまたま知らなかっただけなのか。


「私はそこの現当主、西園寺琴乃の孫娘に当たります……当たりますというのは西園寺琴乃の娘である私の母は駆け落ち同然に私の父と家を出たためで、今でこそ和解していますが当時はそれはひどく揉めたそうです。

 私が生まれることで一応の許しを与えられることになったのですがその条件がというなんとも言えない理由で……」

 ちょっと恥ずかしそうなお嬢様のしずさんが可愛い。照れてる美人っていうのはいいものだなって思った。


 つまり西園寺琴乃っていうおばあさん……偉い人らしいから琴乃刀自とじって呼んでおくか。

 琴乃刀自が自分のただ一人の孫可愛さにいい相手を見繕ってお見合いして彼氏を作ってやろうとお節介を焼いちゃったって話か。

 う~ん、これってしずさんの立場からしたらかなり迷惑な話なんじゃないか?

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