第41話 生まれて初めてプロポーズされた(陽菜視点)
多々良くんは味の違う卵焼きを半分ずつ分けあおうとして私にあ~んをしてきている……謀ったなお母さん!
テンパった私は心の中でお母さんに八つ当たりする。
いや、八つ当たりじゃない。あのお母さんは分かってやってる。
こうなる可能性があることを想定したうえで二種類の卵焼きを作らせたのだ。いったい何手先まで読んでいるの?
脳が現実から逃げようとするが、状況は変わらない、現実は非常である。目の前の卵焼きは消えてくれない。
多々良くんは私を安心させるように小さく頷いてにっこり微笑んで、小さくあ~んって声を出した。
めっちゃ甘やかされてる感。そして圧倒的な場慣れしている感。
覚悟を決めて卵焼きをぱくっと咥える。多々良くんの持つ箸にまで唇が触れないように細心の注意をして少し茶色い卵焼きを食べる。
モグモグ……お醤油が濃い分だけうちの卵焼きよりしょっぱいんだけど全く味が分からない。恥ずかしさで半分涙目になりながら卵焼きをゴックンと飲み込む。
すると多々良くんがちょんちょんと私の肩を叩いてから笑顔を見せて自分の口を指さした後、あ~んと口を開く。
こ、ここここここここっ、こけっ、これって私に白い方の卵焼きをあ~んってしろってことだよね? ショックで一瞬言語中枢が壊れてニワトリになるかと思った。
うう……多々良くんの顔を見ることが出来ないまま自分のお弁当箱の黄色い卵焼きをピンクのお箸で半分に切って、多々良くんの顔も見ずにお箸で摘まんでこの辺だろうと思うあたりに持ち上げる。
あ~んなんて言う余裕はない。恭ちゃん相手に何百回とおママゴトトレーニングしたはずなのに実戦で使えない。
実戦で使えない練習はただの時間の浪費よ! というお母さんの言葉が頭の中にこだまする。本当に何手先まで読んでるの?
パクッ……お箸に感触が伝わり柔らかい感触に包まれたお箸の先が抜ける。
か、間接キス!? 今普通に唇がお箸に触れてなかった? 目をそらしていたから全然分からない。うう……お箸の先を見るけどピンクのお箸は何の答えも教えてくれない。
うう……普通のカップルなら気にせずにこのまま食べちゃえばいい場面なんだと思う。
相手のことが好きならええい……って言っちゃってそのまま食べちゃうのもいい。
お箸の先っぽを眺めていると、多々良くんがポケットから除菌用のウェットティッシュを一枚出して渡してくれる。
あ、私が間接キスを嫌がってると思わせちゃった?
そうじゃない……そうじゃないよ多々良くん。慌てて否定しようとする私を制してお箸の先っぽを拭いてくれながら
「ゴメン、箸には触れないように食べたつもりだけど気になるよね。姫川さんは免疫抑制剤飲んでるからそういうの不安だもんね」
あ、……分かってくれたの? 信じられないことだが多々良くんの茶色い卵焼きを半分に切る前にも箸を拭いたのだそうだ。気付かなかった。
ちょっとした細菌感染でも体調を崩す可能性がある私の体調を
「あ、ありがとう。つ、続き……残り食べよう」
その後のお弁当の味は全然わからなかった……多々良くんって食べさせ合いっこには凄く慣れてた。
昔はあれだけ私に怯えていたのにカノジョか何かできて余裕が出来たのかな? クラスの女子とも仲がイイみたいだし……って何モヤモヤしてるの私。
多々良くんは多々良くんであって、恭ちゃんじゃないんだから私がモヤモヤする理由なんて何もない。
優しくて
なんでこんなにモヤモヤするんだろう……あ、彼女持ちだと遊べなくなっちゃうからか?
そうだ、せっかく友達になったのに彼女持ちだと遊べないのがちょっと残念なだけなのだ。
そんなことを考えてるとお弁当を食べ終わってごちそうさまをした多々良くんが爆弾発言をした。
「そういえば今日、生まれて初めてプロポーズされたんだけど」
ガシャンッ!……お弁当箱をまとめて包んでいた手元が狂いお弁当箱が地面に落ちた。
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