第5話 アドミタンス

『そういえば、あの謎の巨人…じゃなくてバラキエルについてですが』

 情報部の男性が司令官へ報告。

『なんだ? 言ってくれ』

『はい、バラキエルが時折発する青い稲妻や閃光の事について少し…』

『で、それが?』

『はい! どうやらあれは単なる発光ではなく、何かしらの粒子が光っている…という事が分かりました。何とかしてこの流出を入手出来れば、弱点や正体の解明に活かせると思います』

『なるほど…だがどう入手すれば、いや、いい考えがある!』

 司令官は人差し指を真っ直ぐて、そう言い放った。


「あぁ〜肩揉んでー」

 大王たいようがそう言う、字面だけだと本当に王様のようだ。

「ダメです…貴女の肩が潰れますよ」

 虎氏こうじは肩を竦めながら呆れたように一言。

「片手は元があるでしょうがー」

「んぬ…ぁあ、分かりましたよ」

 溜息混じりに肩に手をかけるが…

「全然凝ってない……クソ健康」

「いいのいいの! 気持ちいいには変わりなあぁ゛あぁっあ゛ぁ゛ぁぁ!!!!」

 ゴリゴリ…と言うより陥没しそうな勢いで義肢の右腕の指で、汚い美声(意外と)を上げトントンと机を叩いてギブアップを示す。

「はぁ…」

「へへへへ……そうだ近接武器も欲しいだろう?」

「そもそもあのシチュエーションなら近接武器なんじゃないのか? あんたの好きなアニメでも」

「私の好きなアニメだと射撃武器だったよ……っと、ああいう凄いバリアはね?」

「あれは超遠距離狙撃だったろうに…」

「まぁいいんだ、過去を見るのはあまり好きじゃない」

「はいはい…」

 ぴぴぴっ!

 と雑用ロボ35号が皿に載ったおにぎりを届ける。

 ちなみに作っているのは他の個体のロボだが、それも35号である。つまり、35号とは若干シンギュラリティな1つのマザーAIを指している。だが、名前を一つ一つ付けるのも面倒なので35号と一括りに呼んでいるのだ。

 それを手に取ったその時!

 ヴィーっ! ヴィーっ! ヴィーっ!

「発進だね」

「コクピットに行くまでに美味しく頂くよ!」

 ぴぴぴぴっ!

 駆け出した戦士をカメラの奥で見据え、余ったおにぎりを大王たいように渡した。

「私達もいこうか」


 キィィィィィィ─────ッン!!

 成層圏より3000m上空、巨躯の天使アンゼルはやはり音速の3倍増しの速さで目的地へと向かう。普通ヒト型がそんなスピードで飛べば最も先行している部位からスパっと鋭利な円錐状に削り取られそうなものだが…そんな事は無かった。

「現地到着まで10秒」

{{はいよージジジジ……、アーティニータ送りまーす! 3、2、1、! コンタクトジジジッ!! さぁとべ! バラキエル! ジジジィーッ!!!}}

「了解…ってバラキエル? アッ!」

 ヒュウウウウ────────!!!

 後方5時方向から追いかけて来たのは宣言通りに、余剰エネルギー増殖加速銃であるアーティニータだ。受け取るなどはせず、共に飛び続けた。


『目標、ラジアル依然止まりません!』

 ずぱぁぁあん!!!

 高高度からのエネルギーをのせた片足ミサイルキック! 元気な子供や、バイク乗りが憧れるヒーローの一撃!!! 蒼いイナズマが迸る。

『関節痛めないのかな?』

『言ってる場合ですか、司令官!』

『では作戦開始!』

 というのもゴツイ戦闘機がバラキエルのすぐ近くを通り過ぎるだけで…

『作戦終了! 各員安全確保のためにある程度距離を取ってください!』


 ひゅうん、ひゅうん! と周りを飛ぶアーティニータを手元に誘導し掴むと、しっかりと構えを取る。セーフティ解除を最速で達成すると、一撃!

 ばひゅううん! 

 かくぅうん!

 そんな頓狂な音を立てると、当たったと思われた弾は45度で反射! そしてまたかくぅうん! 鳴れば再び反射、それを繰り返していき、

「危ないっ!?」

 蒼い光が戻ってきたのだ! 

 被害を抑える為に手で受け止める…凄まじい衝撃がボディを走る。

「怪獣はこんなの受けてんだな…」

 とりあえず今はそんな事で頭を搔いている場合ではない。

「厄介だぞ…飛び道具が好きに使えないとなると」

 そういいつつ、真っすぐ四本足のタカアシガニのような怪獣にとびかかった。

「パニッシュっ!!」

 蒼い光に包まれた拳は確かに相手を殴った! そう思っていた!

「なっ!!?」

 気付けば自分は相手のいない斜め前方向の空気に向けて腕を突き出していたのだ。

「これはあれか、何かしらの脳力で向きを変えるみたいなそんな奴か?」


『ラジアルは何かしらのフィールド干渉により触れる直前の相手に対して向きを強制的に変える…そもそもの攻撃でダメージが入らなかったからタケミカヅチを投げたが…簡単にこうだ。どうする天使?』

 情報部の男性幹部はそう独りで長々と。


「でも、初撃は、入ったよな? 何故だ? ハイロゥのステルスで気づかなかったのか? シンプルに不意打ちで入ったのなら、それなら気づかず倒せば…だがどうする?」

{{苦戦中っぽいね~…じゃあお助けアイテム行きますジジジィー!!!}}

 キィィィィィン!!

 甲高い轟音立てつつ接近する飛行物!

 それは、

[剣!? またやりやがったなぁ…]

 それはそうと、アンゼル周りの周回軌道に乗ったその剣を手に取る。

「ん…これは、これならもしかすれば!」

 ポップアップし表示された情報群を流すように見て、そして動く

「であああああああっ!!」

 それは突進だった、迷うことなき突進!

 その剣を怪獣に突き立てる、しかし弾かれ、向きが変わる。

 お構いなしに引っ掻き回すと、突然その天使は宙に飛び上がる。


『何をしているのでしょう!?』

『一体……。最初の不意打ちで倒し切れなかった時点でダメな事を悟って』

『気が狂ったとでも言いたいのか? ふむ、だが私にはそう見えんな』

 司令官? と幹部の女性と情報部の男性が、そう言った彼に振り向いた。



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