仮面の姫と帝国建国記

@T-Nishijima

プロローグ 刹那の光とともに

 胸が高鳴る。


 月島いのりは、背筋を伸ばし、竹刀を握り締めながら息を整えていた。


 期待を込められた剣道部のエース。それが今のいのりだ。そしてその期待に応える自信がある。


 蒸し暑い体育館の中に響く歓声と頬を伝う汗。それら全てを吹き飛ばすような集中力で相手を睨みつけ、下半身を固めて勝負の瞬間を待った。


「はじめ!」


 審判の声と共に、時間が動き出した。全てはここからだ。中段の構え。剣道の基本。相手も同じ。静かに正中線に竹刀を寄せる。ここからは刹那で試合が決まる。


 緊張にする時間が続く中、耐えかねたのか、動いたのは相手が先だった。先手必勝とばかりに打ち込んでくる。しかし、その動きは読めていた。


 体はしなやかに、そしていのりの思う通りに反応していた。見切りともに、こちらからも相手を逆に突き崩しに行く。気迫と速さ、それがいのりの剣道だ。


 シュンッ!


 いのりの竹刀が相手の面を打つ音が、試合会場に轟音となって響いた。場内が静まり返り、緊張が会場を包み込んだ。


「面有り!」


 審判の声が空間を切り裂いた。


 その瞬間だった!


 いのりの体を不思議な光が包み込み、霞んだかと思うと、その場からいなくなった。


 一瞬にして、彼女は消えてしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る