海外でキ〇タマが2倍以上腫れた話

ラフ・フォックス

第0話 プロローグ

1936年

アメリカの小説家であり飛行家でもあった「リチャード・バック」はこう格言を残している。


『Nothing happens by chance , my friend ... No such thing as luck. Richard Bach.』

(何も偶然ぐうぜんなど起りはしない。友よ…運などと言うものはないのだ。)


で、あるのなら。これも運のひとくくりではなく、必然ひつぜんだったのかもしれない。



まず、このキャッチーかつ、すでに1行でオチているタイトルに引き付けられた読者の人に聞いておきたい。

君は、睾丸の片方が2倍以上直径約9cmに腫れたことがあるだろうか?

異様に熱を持ち、心臓が脈打つごとに腫れた睾丸が別の生き物のように感じられたことは?

腫れた睾丸に膀胱や内臓を圧迫され、鈍痛を抱えながら脂汗を流し、仏頂面のタクシードライバーにパスポートを手渡したことは?


それがもし、異国の地マレーシアで、かつ初日の飛行機の中で発覚したらどうする?


性別に限らず、みんな想像してみて欲しい。


僕は半分、無の境地へ旅立った。

諦めが人の頭を真っ白にさせるというのは知識としては知っていたが、まさかこんな状態で経験するとは思わなかった。


これは今なお(2023年5月25日現在)根本治療ができず、闘病を続けている僕のノンフィクションエッセイ小説である。


2023年4月19日午前11時

マレーシアのとある町医者の病院で、僕は茫然となりながら座っていた。

部屋の奥からは、「GYAAAAAA」と若い男の切ない悲鳴が定期的に聞こえ、右には病院内にもかかわらず、スマホでガンガン音楽を鳴らして待っている男が一人。

通路には検診に来たであろう子供がキャッキャ走り回り、日本では考えられないような阿鼻叫喚とした世界が広がっていた。

左には、心配そうに付き添ってくれた現地のスタッフがおり、なんとか僕を元気づけようと、片言の日本語とGoogleの翻訳ツールで定期的に話しかけてくれる。

僕はなんとか、数少ない覚えている中学生レベルの英語を総動員し、負けじと感謝を伝える努力をする。

Sorry.Really sorry.Thank you.But just being able to come to the hospital was a bit of a relief.

(ごめんね。ほんとうにごめん。ありがとう。あなたのおかげで、病院に来られただけでも安心しました)


嘘だ。

超不安だった。

というかここが僕の最後の地か…最後は日本の土を踏んでからが良かったな…とか思ってた。

僕は視線を落とし、自分の股間を凝視した。

ユニクロで買った1500円のデニムの先には、恐らく2倍以上に腫れた僕の睾丸がある。

激痛ではなく、鈍痛と熱を持ちながら静かに腫れるそのゴールデンボールは、異国の地でその身を検診されるべく、今か今かと待ち続けていた。


(どうして、こんなことになってしまったのか……)


―――まず話しは、2023年3月中旬に巻き戻る。

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