第六十九話 村落

俺たちが村の門の前まで行くと2人の門番は進行方向を塞ぐように一歩斜め前に出た


「見た所、帝国軍の兵士とお見受けします。こんな寂れた村に何のご用でしょうか?」


言葉こそ丁寧だが外部の人間に対する明確な敵意が言葉の裏に見え隠れしている


なるほど、あくまで国境の寂れた村ということで通すつもりか

まぁ、そりゃ下手に帝国軍人と揉めて目立つのも得策でないから当たり前か


俺がベル君に目配せするとベル君が彼らの方に一歩前へ出た

「え、えっと、『大樹は折れず』です」


ベル君がおずおずと門番に向かって合言葉らしき言葉を言うと門番が訝しげな顔でお互い目を合わせるとさらに厳しい空気を纏ってベル君の方に向き直った


「苗木は?」

「一本です」

「状態は?」

「根腐れナシです」


決まった符牒のようなものを二、三度交わすと彼等は頷いて門の前から退き中へ入るよう促した


「じゃあ、行こう」

ベル君が俺たちに振り返って言う。

俺たちは流れるように進んだ一連の流れに呆気に取られていると門番が胡乱げな目で睨んでいたので慌てて3人でベル君の後を追いかけた



村に入ると見える家の半分は大きな穴が空いていたり窓ガラスが完全に無くなっていたりと原型を留めていないものが多い


かろうじて原型を保っている家も多くは壁が黒ずんでおりレンガが所々かけていて今健在なのも不思議な建物しか残っていない


俺たちがゆっくり村の中を歩いていくと家の前に座り込んでいる兵士や倒れた兵士の看病をしている女性が俺たちの軍服を見て睨みつける


彼らにとってこの軍服は憎悪の対象なのだろう。


俺たちは居心地の悪さを感じながら村の中でも1番大きくまともな様相を保っている家へ向かった


其処にも番兵が立っており俺たちの前を塞いだ。

その兵士に対してもベル君は合言葉を述べた

そして、彼らはさっきの門番と同様に訝しげな目を向けた後、道を開けた


扉を抜けると中では書類を持った兵士が走り回り包帯や薬を持った女性が2階へ向かってかけていくのが見える


俺たちは慌ただしい彼らの間を縫って奥のカウンターまで来た


「どうも、帝国軍人さんが何の御用でしょうか?」

恰幅のいい女性がドンとカウンターを叩き周りへ聞こえるように叫んだ


その瞬間、辺りを走り回っていた人々はピタリと動きを止めコチラへと目を注いだ


にしても、すごい圧だ。

俺は一つ咳払いをして固まっているベル君を促す。彼を盾にするようで悪いがここでの勝手を教わっているのは彼だけだ俺たちの命は彼が握っていると言っても過言ではない


「え、えっとパンドラ人捕虜の受け渡しに来ました」

彼がそういうと周囲の兵士たちは目の色を変えて俺たちの周りを囲んだ


「へぇ?パンドラ人の捕虜をどうしたって敵国の帝国の軍人様が連れてきてくれたんだい?えぇ?」


確かに、彼女の言い分は尤もだ

俺たちの立ち位置はかなり微妙な上、それを説明しても理解してくれるかどうか…

周囲の軍人は今にも襲い掛からんばかりにイキリ立っている


ジリジリと俺たちを囲む輪が狭くなってきている。このままだとリンチに遭いかねないぞ…。


ルイスとヘレナもいつでも戦闘できるように腰の拳銃に手をかけようとしている

マズいぞ…?俺がそう思い頭をフル回転していると階段から人の降りる音が聞こえた


「おい、なんの騒ぎだ?」

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