第六十八話 目的地
俺とベル君はルイスとヘレナにトレロをパンドラ人の伝手まで連れていくことになった事を説明した。
ヘレナは特に難色を示さなかったが問題はルイスだった
「ようは苦し屋のいる所まで連れて行こうって言うんだな?」
「そうだ」
俺が頷くとルイスは口をへの字に曲げて眉を顰めた
「なぜ、パンドラ人を助ける?確かに扱いには困るが敵に送り届けると言うことはコイツはまた俺達を攻撃するかもしれないぞ」
まぁ、帝国人であるルイスからするとそう言う反応になるよなぁ
俺たちカナリアの人間や親パンドラ派の人間からすればパンドラ人を殺したくない理由なんて五万とある。
しかし、パンドラと戦争をしている国の人間には生かす理由はない
こいつをどう納得させようか……。そう悩んだ時一ついい案を思いついた
ルイスの服の裾を引っ張り、彼の耳に寄ってベル君とヘレナに気づかれないように耳打ちをする
「いま、ここで逃し屋の情報を仕入れておくのも悪くないだろ?後々、使えるかもしれない」
俺の言葉にルイスは少し怪訝な顔をしたが少し息を吐くと頷いた
「それも、そうだな」
よし!嘘も方便というやつだ。事実、逃し屋の情報を知っておくというのはプラスになると言うのも事実だ。
しかし、こうやっていざカナリアに利のある事をしようとすると反対されるのはツラい
なんだかんだ言って、出会ってからここまで仲良く死線を潜り抜けてきた。
父が決起した時も出来れば敵対したくはない
なんとか、彼の考えを変えさせたい所だ。しかし、今彼とは利害が一致している以上の理由は見つけ出せない。
この短い期間で国家を裏切るほどの関係性を築けた自信もない。何か交渉材料が必要だ。
しまった、また悩み事が増えたな。まぁ、決断の時はもう少し先だろうからゆっくり方策を考えよう。
「ヘレナ!トレロを馬に縛りつけてそのまま馬に乗ってついてきてくれ!ルイスは馬の手綱を引いてやってくれ。ベル君は案内を頼む」
そう言って各々が荷物をまとめて移動する。堀かけの蛸壺は落とし穴になっても不味いので残念だがもう一度埋めておいた。実に虚無感の凄まじい作業だった。コレを繰り返すのが拷問の一種になるのも頷ける
そんなことを考えながら荷物を持って移動する
ルイスはもうトレロについて考えるのをやめたようで手綱をひきながら馬上のヘレナと談笑していた
しかし、こう見ると姫様と騎士みたいだな。ルイスは飄々とした風格を伴っていてヘレナは程よい筋肉のつきがあるとは言え美人だ。彼らは妙に様になるのだ。
チキショウ、俺ももう数年経ったら素敵な美男になるんだからな!今に見てろよ!
っと一人で勝手に口を尖らせているとベル君が話しかけてきた。
「ごめん、僕のわがままを聞いてくれて」
申し訳なさそうにしているベル君に俺は肩をすくめて応じた
「別にベル君のわがままをただ通したわけじゃないさ。俺たちにも利があると思ったからそう判断しただけだ」
俺の言葉にベル君はコクリと頷くと地図に目を戻した
どうやら母親から事前に持たされていたらしい。時折、現在位置を確認するように辺りを見回すものの大きく迷うことなく黙々と進んでいく。
ーーーーーーーーーーー
そうして、しばらく歩いていると目の前に森の影に隠れるように小さな村が見えてきた。最初は廃村かと思ったが煮炊きの煙が上がっているので人はいるようだ
「あそこだよ」
ベル君に連れられて村の側まで近寄っていく。村は粗末な木の柵で囲われていて門らしきところにはボロボロの軍服をきた男が立っていた。しかし、彼らはピカピカに磨いてあるライフルを肩にかけており兵士の誇りだけは守っているようにも、ソレに縋って立っているようにも見えた。
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