第五十二話 変なの
「およ?」
奇妙な格好をした男は格好に似合った奇妙な声を上げるとパッと後ろへ反射的に飛び退った。
「まさか、わかったのか!?」
奇妙な男は腰から拳銃を抜き、銃口をこちらに向けながら残った片手で指笛を吹く
その音が木々の間に響き渡ると今までどこに隠れていたのか斬馬刀を構えた山賊や正規兵崩れのボロい軍服を着たライフル兵が木々の間から現れた
「おいおい、目当てのアタマが向こうさんから来てくれたぞ」
「あぁ、最悪な状況でな」
ルイスが苦笑しながら軽口を叩き俺がライフルを構えて敵を威嚇すると奇妙な男はニヤリと笑い拳銃を下ろした
「ほぉ、わたくしをお探しでしたか。残党狩りの調子に乗った連中かと思いましたが、どうやらおバカではないようですねぇ」
身なりがやけにいいがフーザイトの貴族階級だろうか?
アラスターに教わったことによると彼の国は騎馬民族で決められた領土内を組織化された集団がそれぞれ移動しながら生活している。その中でも統一国の体裁を保つために名ばかりの王と貴族がいる。
まぁ、彼らは王や貴族としての称号や地位に興味はなく戦地で誰が優秀で誰が無能か見分けるために階級を定めているだけらしいのだが……。
「あなたはフーザイト貴族か?」
俺が問うと斬馬刀を構えた連中だけが眉を顰めいきり立ったように近づいてくる
いかん、もしかして禁句だったか
俺が恐る恐る奇妙な男を見ると当の本人は先ほどまで顔に貼り付けていた人を小馬鹿にしたような顔をやめて目を細めて口を真一文字に引き結んだ
「だったらどうする。我が部族に賠償金でも要求するか……?パンドラ如きに手こずっている帝国にそんな余力があるのかな?」
冷静に話しているようだが額に青筋が一筋伸びている
相当、部族に対する愛が強いらしい
「いやいや、そう言うつもりじゃない。どちらかといえばお互いの利になる話をしにきた」
俺が肩をすくめて見せると奇妙な男はスンっと殺気を収めると先ほどの笑顔という仮面を貼り付けた。案外さっきの怒りの表情も交渉のための手札なのかもな
「ほぉ、どんなお話かな?お聞かせ願おう。おい、諸君らも武器をおろせ。近くのテントにご案内しよう」
彼が部下達に武器を下すように指示してこちらに手招きをして見せる
俺が快くその手を取ろうとするとルイスがそっと俺の手を掴んで止めた
「招待は嬉しいが、そこまで大仰な話じゃない。ここで済ませよう」
俺の手を掴んだままルイスは笑顔を浮かべて断りの言葉を吐く
「そうか?残念だ。いい茶葉を我が部族から送ってもらっていたのに」
俺が訝しげにルイスを見るとルイスが耳打ちしてくる
「あいつは信じるな。妙な空気を纏ってる。何をしだすかわからない」
「あ、あぁ、そうだな。ごめん」
「おっと、名乗りがまだでしたな。私の名前はフォロイツ・ディエ・ノイツェである」
奇妙な男あらためノイツェは名乗りをあげた
確か真ん中のディエは彼の国の爵位を表すものだったか
「自己紹介ありがとう。俺はルーク・バックハウス。この隊の分隊長を任されている」
そう俺も自己紹介するとノイツェは片眉をあげ不思議そうな顔をした
「貴殿が分隊長?その風体でふざけたことを言わないで頂きたいな。そちらの横に立つ男が隊長だろう」
そう言って彼はルイスの方を指差した
そうか、失念していた。帝国軍では実力至上主義の影響で女性や成人まじかの子供ががそれなりの地位にいることも珍しくなかったが、外ではこう言う反応になるよな
「いや、俺じゃない。そっちのルークが隊長だ」
「ふん、そうか。帝国も随分と人手が足らないようだな」
ノイツェは鼻で笑い部下達の方を向いておどけて見せる、それに答えて部下達も忍び笑いをもらしている
俺も後ろの部下達を見るとドグが腕まくりをして腕を回しているのをヤウンが慌てて抑えていた。あの2人はあれが普通だから気にすまい
「それで、提案は聞かなくていいのか?」
「いや?お坊ちゃんの考えたアイデアを聞かせてもらおうか」
やっと話出せそうだ。俺はここでルイスと煮詰めた考えを話す
「こちらはそちらの兵を80人ほど捕虜にしている」
「そうか、80人か……。」
彼は鎮痛な面持ちをすると睨むようにこちらを見据えた
「それで?その捕虜を殺すか?」
「いや、殺してしまってはそちらの怒りを買う。だから捕虜をそちらに売りたい」
「なに?捕虜を売るだと?何を考えている。その兵達で我々はまた貴様らを襲うかもしないぞ?」
そう、ここまでの問答は想定通りこの次が重要だ
「あぁ、だが。こちらもそれは避けたい。だから捕虜を売り渡す代金で諸君らを雇いたい」
「なんだと!?」
これがある意味秘策でこれ以外にコイツらの脅威を取り払う方法はない
俺はルイスと大博打を打つ算段を立てたのだ
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