第三十七話 友

ヘレナが語ってくれたのは実の父との最後の思い出だった。

父親の話をしている時、彼女は懐かしそうに目を細めながら天を仰いでいた。

それは涙を流すまいとする彼女なりの意地であったのかもしれない



父親との思い出か……

前世の俺の父親はドが付くほどのクソ野郎だったわけで懐かしいとは微塵も思わない


某ロボット作品で「親父にもぶたれたことないのに」と言うセリフを聞いて優しい父親だなと思ったものだ


父親曰く母親が死んだのは俺のせいらしい

いつも酔っ払ってはそう言いながら俺に当たり散らしていた

その意味がどう言うことなのかは最後まで教えてはくれなかったが暴力を日常的にふるってくるアイツを父親だと思ったことはない



だが今世の親であるフランツも父親と思っているかと言うと首をかしげざるを得ない

生みの親、と言うよりかは育ての親といった印象だろうか


恩義は感じていれど、そこには育ててくれた人という以上の関係はないと思っている。

もちろん向こうは自分の息子として扱ってくれるし、それが嬉しくあるのは嘘ではない

だが、いまだに”親”と言う認識が持てなかった。

それでも優しいと言うのはありがたい物だ



戦争という非日常の現場において明日は必ず訪れると確約されうるものではない。

そう考えるとここはフランツの誘いに乗って隊を移動すべきだろうか?


「親孝行・したい時には・親はなし、か。昔はこの言葉の意味がさっぱり理解できなかったけな」

物資積載量の関係から運べない食事を消化するために前線にあるまじき豪勢な食事の片付けられたテーブルの前で俺は1人こぼした


「ルーク君?」

その声にびくりと体を振るわせ慌てて振り返るとそこには空き缶を洗い終えたベル君が立っていた

「な、なんだベル君か。脅かさないでくれよ」

「何か悩み事?」


その指摘に俺は思わず苦笑してしまう

顔に何か書いてあっただろうか

流石に4,5年も仲良くしているとこの程度の悩み事はお見通しか

「あぁ、ちょっとな」

「ルーク君はいつも抱え込みすぎるからね。たまには話してくれたっていいんだよ?」


そう言いながらベル君は向かい合う様に目の前の椅子に腰掛け頬杖をつきながら外を眺め始めた


「ヘレナとルイスは?」

「なんか、ヘレナにサイズの合う軍服もらってくるんだってさ」


あぁもしもの時はヘレナが逃げる時にも使えるもんなぁ

多分、貰いに行くとか言ってるけど隙を見て掻っ払ってくるんだろう。ルイスはこういうところ抜け目ないな



「なぁ、ベル君。もし今の部隊より居心地のいい部隊に異動できるとしたらどうする?」

「うーん、今の部隊も十分居心地いいよ?最初に配置された部隊より兵士の人たちは優しいしね」


たしかに補給物資が余ったとはいえ新参の俺らに譲ってくれるというのは先日までいた部隊では考えられないだろう。そう考えるとやはりこの体に残るのが得策か


「なにより、もう環境の変化に疲れたよ」

「たしかにな……」

あまりにしっかりとしているから忘れそうになるがベル君はまだ11歳だ。

まだまだ遊び盛りでこんな戦場に出る様な年齢とはいえない

これ以上の環境の変化は彼にとっても良いことではないだろう

それに行った先でこれだけの待遇を受けられるかはわからない。フランツは身内にも厳しいからな


よし!決めたぞ!俺たちはバラト大佐の補給大隊に追随し武功を挙げる!

そうと決まれば気が変わる前にさっさとバラト大佐に連絡しに行くに限るな


「ありがとう、ベル君!心は決まった!善は急げだ!ちょっと言ってくる」

そういうとベル君は嬉しそうにふふッと笑った後一言、言った

「行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる」


その日俺たちの運命のポイントが切り替えられたのだった


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