第十五話 祖国の歴史

カナリア共和国自体の過去回想編になります。

この間もルーク君は別の訓練や授業を受けています。

(わかりにくいので一応補足でした)

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その国は小規模ながらも平和を体現したかのような国だった


西側と南側は海に面し魚介類を主食としながらも内陸部にはわずかな牧草地が広がり東と北に隣接する国との関係は良好だった


人々は裕福ではないが質素でもない生活に満足し笑顔で暮らしていた

公園では子供たちが近所の子供達と遊んでいる光景もよくみられ大人たちは仕事に行く途中に彼らと少し遊んでやったり声をかけてやったりしながら元気をもらっていた


大通りには発明されたばかりの自動車が行き来しており彼らに心と時間のゆとりをもたらしていた


もちろんどんなに平和な国とは言え軍隊は持っている。とはいえ1000万人の国民に対して一個連隊5000人の連隊が8個つまり4万人ほどと規模はお世辞にも多いとは言えなかった


まぁそれもそのはず、彼らはここ50年ほど戦争らしい戦争を経験しておらず軍隊が警察業務を兼任している状態だった


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その日も第一連隊 連隊長ルフェイン大佐は大きな円卓の自分の席でコーヒーを楽しんでいた

そこへギギギと耳障りな音を立てながら扉が開く


「ったく、司令部の扉は相変わらずだな

いい加減直さないか?コレ」

「我慢しろ、ただでさえ軍に予算が降りないんだドアなんか直してる余裕があったら俺の軍服を新調したいぐらいだ」


入ってきた相手はルフェインにとって同僚に当たるウッツ大佐だった

彼は片手に新聞を持ち肩をすくめながらルフェインの隣の席ににどかりと腰を下ろした


「なぁ、きいたか?来年も軍備縮小の方向で予算会議が動いてるみたいだぜ?」

「まぁ、ここ50年ものあいだ他国との小競り合いすら起きてないんだ納得することしかできまい。私たちの組織は警察機関としては大きすぎるのさ」


ウッツは新聞を横へ置き部屋の隅にあるコーヒーポットへ向かう

「だけどよぉ、このまま予算が減らされ続けたらお前のその飲んでるコーヒーだってなかなか飲めなくなるぜ?」

「そりゃ、困るな最近になって葉巻もやめたところだっていうのにコーヒーまでやめなければいけないとは、議会は私たちをよほど健康にしたいらしい」

カップを置きながらウッツの置いた新聞を見る


写真には民衆を前に熱弁する若い男が写っており

見出しにはデカデカと

『軍は解体して新しい組織を作ろう!戦争は半世紀も前に終わった』

と書かれていた

ルフェインはあまりにもお粗末な弁論だと思ったが実際に世論がこれを支持しているのだからどうしようもない


ヒタヒタにコーヒーを入れたカップを片手にウッツが新聞を覗き込む

「しかしコルト議員も熱心だよなぁ別に財政難でもなんでもないのに軍を解体したがるなんてよぉ」


「まぁ、我々が暇なのはいいことさ

流石にコーヒーを楽しむぐらいはさせて欲しいがね」


もう一度ルフェインが置いたカップに手を伸ばそうとした時

慌ただしい勢いでドアが開いた


ルフェインは顔をしかめて飛び込んできた将校に注意する


「ドアはもっと丁重に開けたまえ、それひとつ修理するだけでも監査に…」


だが乱入者は遮るようにルフェインに怒鳴る


「それどころではありません!敵が、敵軍が攻めてきたのです!」


その言葉にルフェインとウッツは顔を見合わせて立ち上がる

「それは本当か!?敵は北のアトラス王国か?東のパンドラかどちらだ!」


顔を青ざめさせて、飛び込んできた将校は首を横に振る

「て、敵軍は所属不明の旗を掲げ南側から上陸を試みております!」


その言葉にはルフェインは二の句を継ぐことができなかった

「それはまずいぜ、ルフェイン俺たちの国は今まで沿岸部からの攻撃を受けたことがねぇ。海軍はおろか迎撃設備も何も持ち合わせちゃいねぇ」


そう、絶望的な状況だった

だがいち早くルフェインは立ち直り将校に指示を飛ばす

「全八連隊のうち東と北の国境に駐屯してる第七・第八連隊以外は沿岸部より30キロ内側の地域に集合する様に伝達しろ!急げ!」


「ハッ!」

将校は慌てて司令室を飛び出していく


「俺も自分の第二連隊をまとめてくらぁ!すまねぇが作戦立案は任せる!」

そう言ってウッツも駆け出していく

司令室に1人残されたルフェインは頭を抱えざるをえなかった


「まずいことになった、練兵は普段からしていたが士官級の中で実戦経験があるものは第五連隊の連隊長であるバフリル准将しかいない」

「いや、とにかく敵軍の陣容を見ないことには作戦も決まらん」

そう結論づけ壁にかかっている電話をとりルフェイン自身の第一連隊も所定の位置に集結させるよう副連隊長に指示を出す


そして彼もまた司令室を駆け出していく


司令室にはまだ湯気を立て続けるコーヒーカップだけが残っていた

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