第十三話 紳士

男の姿がブレたかと思うと

近くのゴミ箱に向かって吹き飛んでいった


そして、もう一度マリーの方に目を戻すと

そこには掴まれていたマリーの手を優しく握る英国紳士風の若い男が立っていた


その男は黒い丈の長いシルクハットを被りマリーの手を握っていない右手には黒い杖を持ち顔には片眼鏡をかけていた。年齢は25の手前ぐらいだろうかその顔にはヘラヘラとした笑みを貼り付けている


侍女の服を着たマリーとその手を握る男の絵面は何も知らない人から見れば物語から抜け出した二人の光景に見えるのだろう

そんなことを考えて見惚れていると男の方が俺の方を向いてヘラヘラと笑いながら話しかけてきた


「やぁ、坊や!レディを守るのはジェントルマンの義務だ!なぜ助けようとしなかった?それとも侍女なんてどうでもよかったか?」


だが俺も一人の男としてそんなことを言われ黙ってるわけにはいかない


「僕だって、やろうとしたさ!だけど僕みたいな子供が掴み掛かったってなんの助けにもならないでしょ?それと俺は"坊や"じゃないルークっていう立派な名前があるんだ」

一応相手は大人なのでバレないよう子供っぽい話し方で言い返すと男は呆れたようにマリーの手をはなして肩をすくめた


「あのなぁ、ルーク君

そうやって、なんでも考えてばかりじゃ何にも変わらない。お前ぐらいの頃は考える前に行動するもんだ。違うか?」

「じゃ、じゃあどうすればよかったんです」


確かに彼の言うことは精神論ではあるが一つの事実である

俺がそう言って落ち込んで見せると

マリーが間に入って俺を背中に隠すように男の前に立った


「坊ちゃんは悪くないです。私の不注意に坊ちゃんを巻き込んでしまったに過ぎません。落ち度は私にあります。助けていただいた方に対する態度ではないのはわかっていますがどうかこれ以上坊ちゃんにかまわないでくださいませ」


よし、ありがとうマリーその調子だ!

そんなポケ◯ントレーナーみたいなことを考えていると


「ま、そうやっていつまでも優しいレディの後ろに隠れてるだけでいいならそのままヘタレでいればいいさ」


そこへマリーが再び割って入ろうとするのを遮って男は名刺を俺の前に差し出した


「だが、そんなヘタレになりたくないんなら俺に習わないか?さっきの酔っぱらいを吹き飛ばした武術だって兵法だってなんだって教えてやる。気が向いたらここに来い」


そういうと男はゴミ箱の横で目を回していた酔っ払いをもう一度蹴り上げて

歩き去っていった


「変なのに絡まれましたね…坊っちゃんどうなさるおつもりですか?」

歩き去る男を見送りながらマリーが俺に問いかけてくる


「どうしよう…もし行ってみるって言ったらマリーはついてきてくれる?」


「まぁ、坊っちゃんがヘタレとか言われ続けるのは嫌ですし、もしもの時は私がお守りします。一度尋ねてみるのもアリかもしれませんね」


反対されるだろうなぁと思いながら恐る恐るマリーに聞くと意外にも行くことを促されてしまった。

正直なところあんな面倒そうなやつになんて絡みに行きたくはないが…これから自分の身は自分で守らないといけない世界に放り込まれる以上護身術は必要かなぁ


あとうちの国の歴史も大いに知りたいところではあるんだよなぁ

ジャンプ漫画で師匠パートが入るのも納得だ

俺は無力だもんなぁ


そう思いつつも俺は次の日好奇心半分面倒くささ半分であの男から渡された名刺の住所に向かうのだった

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