第七話 出会い
そんなこんなで、俺はあっという間に6歳になった
年月ってのは早いもんで幼い頃だと昨日何があったとか覚えてないこともザラだ
最初はいわゆる若年性認知症なんじゃないだろうかと本気で心配したものだが、別にそういうわけでもないらしい
大事なことは覚えていたしな
そしてやっと言葉を喋れるようになってきた
それも割と饒舌にだ、だがあんまり突然喋れても両親にいらぬ疑念を抱かせてしまうので親の前ではカタコトで喋る努力をしてる
言葉を喋れない5年間は意外と辛かった
こっちが何を言っても伝わらないしあっちが何を言ってるかも断片的にしかわからない
まるで4年間留学生活をしてたみたいだ
最近は家族にバレないようにこっそり人の少ない早朝に出かけたりしてみている
何となくマリーにはバレているみたいで時々つけられているように感じる
まぁ、戦時下の世界なんて人攫いがいて当たり前だもんな心配になるのも分かる
じゃあ捕まえろよって思う場面だがマリーは何故かいつも後ろの物陰に隠れながらそっと着いてくるだけだ
そっちの方が俺としては好都合ではあるから構わないのだがちょっと怖いな
その日も俺は両親が寝ているのを確認してそっと家を抜け出した
朝の街は本当に人がおらず薄い霧が張っているちょっと特別な気分に浸れる時間だ
これは前世ではJ-popの歌手が
「こんな時間がずっと続けばいいのに」
とラブソングで歌うのも頷ける
あの頃は一ミリも何言ってるのかわからなかったし、なんなら何浮ついたことを言ってやがるんだとシバいてやろうかとも思っていたが今となってはわかる
今日は気分がいいのでちょっと遠出することにして近くの公園まで歩いていくことにしよう
そういうことに決めてテクテクと歩いていく
目の前に公園が見えてきたあたりで人影がいるのが見える
「こんな朝早くに出歩いている人が俺以外にもいるなんて…」
何気にこの世界で家族とマリー以外で同じ空間に居合わせるのは初めてだ
ちょっとドキドキするがいつまでも他人と話したことがないなんていい笑いものだろう
前世でも小学校に通い始める年齢なんだ
そろそろ俺の営業で培ったコミュニケーション能力を披露してもいい頃だろう
よーし六年間一切使っていなかったがとは言えそこまでさびれてはいないはずだ
そうやって自分に覚悟を決めさせて話しかけにいく
公園に入って見たわかったのだが相手は公園のベンチに座ってうつむいて本を読んでいた
見た目は俺と同じ6歳ぐらいに見える、そう思っただけで少し親近感が湧いてくるだがこんな朝早くにこんなところで本を読んでいると言うことは俺と同じ家を抜け出してきたクチだろうか
だがさらに話しかけられる距離まで近づいた時にわかったのだがその子はめちゃくちゃ自分の世界に入り込んでいる…
どうしよう話しかけるのやめてしまおうかな?いや、これはいいチャンスなんだ話しかけて見なくちゃな
いやでも、もしここで話しかけずに友達が出来なかったら某ぼっち・○・ろっくのひとりちゃんみたいに拗らせたぼっちになってしまうかも…
そ、それだけはいやだ!
は、話しかけなくちゃ
「あ、あの!」
そう声をかけるとその子はゆっくりと顔をあげた
その顔を見て息を呑んだ
なぜって、その子の顔がなかなかに整っていたからだよ!少し中性的でとおった鼻筋と短髪の隙間から覗くくりくりとした瞳!別に俺は男色とかホモホモしい訳ではないが、思わず見惚れてしまった
「えっと、なに…?」
そうやって見惚れているとその子は困惑したように
問い返してくるので俺は慌てて返答する
「あー、こんな時間に人がいるなんて珍しいなって思ってさ何してるのかなぁって」
そういうとその子は首を傾げて
「本を読んでるんだ、この辺の子達にずっといじめられててね…こんな時間でもないといじめっ子に捕まっちゃうんだよね」
まぁ、確かにおっとりしてていじめの対象にされててもおかしくはない
だが親とかはいないのか?こういう時こそ親の出番じゃないか
「えっと、お母さんとかお父さんとかはいないのかな?」
「お父さんは遠くに出張しててお母さんは夕方にしかいないんだ」
悲しそうに俯くこの子を前に俺は自分の前世の境遇を重ねていた
あの時俺のことを助けてくれる奴はいなかった
だけど今俺はそれを傍観する他人側だ。だからあの時助けてもらえなかった分こいつを助けてやらなきゃいけないとどこかで思ってしまった。
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