第16話家族のために
領主邸 領主夫人
商人との商談を終え私は先ほど話題に出た手紙に目を通す。
『到着直後は兵士の連れ去りや散発的な攻勢が目立ったが、ここ最近は魔物の動きが緩慢で特に鳥系魔物が少なくなったため、今のうちに補給をできる限り済ませておきたいと思っている。近日中に何か大きな動きがあるかもしれないので、今回は剣や薬などを中心に補給をお願いしたい。』
兵士の連れ去り・・・おそらく食い殺されているのだろう。
鳥系の魔物が少なくなったというのは気になるがそれより気になるのは動きが緩慢という点だ。
もし指揮するものが持ち場を離れて何かをしているとしたら・・・・?
攻略目標が別のところにあり今の前線そのものが陽動だとしたら?
・・・・考えすぎか。
手紙を机にしまい、背もたれに腰を掛け少しリラックスする。
最近あの子とまともに会えていない・・・。
昨日なんてあの子の誕生日だったのに会うことができなかった。
机の中にしまったままのプレゼントが今もある。
あの人がいない間私が領主代理という重責を背負っているが、もう少しあの子に寄り添わなければならなかった。
10年前に起こったマリーゴールド防衛戦で人口が激減し、兵士の補充もしなければならなくなった。
ただでさえ負傷者がいるのにだ。
その帳尻を合わせるため隣領に孤児がいれば引き取る旨を通達したり、商人に借款をお願いし財政を立て直そうと躍起になった。
王家にすら借金を願い出るほど財政はボロボロだった。
それでもあの人のために、家族のためにとしてきた行為は間違っているとは思わない。思わないが・・・・・
今日は必ず時間を取りましょう。家族としての時間を過ごすために。
「敵襲!敵襲!!魔物があらわれたぞー」
窓を閉めていたため大きくは聞こえなかったが内容は間違いなく聞こえてきた!
急いで声の聞こえた南側の窓を開け魔物を探すが見当たらない。
ひょっとしてどこかの門で発見したのだろうか?
だとすれば領主代理としてすぐに出撃しなければならない。
私は部屋を出ようと背を向け近くにあった乗馬用の服を手に取った。
・・・・何か匂いがする・・・何か焦げ臭い。
後ろを振り返ると玄関口が炎に包まれていた。
3人の守備兵と執事が魔術を使い火を消そうとしてるが数が違いすぎる。
そうこうしているうちに魔物が建物に体当たりしてきた。
「くっ!」
壁の一部が崩れ破片が飛んでくる。
このまま2階にいたら危険だ。
1階のほうが倒壊した時の被害は大きいが救出時間とのリスクを天秤に掛け下に降りることにした。
エントランスから階下に降り玄関口が見えてきたとき守備兵が大勢出てくるのが見えた。
助かった・・・・。
そう油断した時だった。
南側から走ってきた人が大声で助けを求めてきたのだ。
「大変だー!西門が破られた!!魔物が教会に向かっている!」
「何だと!?」
教会の結界が壊されれば魔物を迎撃できない。
私が救出されるのを待って魔物を迎撃してから教会に向かうか、今いる守備兵を半分に分けて教会に向かわせるか、守備兵全員を教会に向かわせるか、迷っている時間はなかった。今すぐにでも決断しなくてはならない。
まず2番目はあり得ない。今の守備兵でも足りないのに半分に分けるなんて愚策中の愚策だ。
残りは1番と3番だけど私だって死にたくはない・・・・でもここで何とかしないと王都を危険にさらしたとして一族郎党責任を取って連座になってしまう。
全員を行かせるしかなかった。最悪、私が時間を稼いでる間に防衛が成功すればそれでいい。心残りは・・・・パンジーのことよね。
せめてこの思いを・・・・そうだ!
「皆聞きなさい!私を切り捨てて教会の魔術結界を守りなさい!」
「なんですと!?」
執事が驚愕の顔を浮かべる。
「そしてあなたたちはパンジーの指示を仰ぎなさい!あの子は経験こそ足りませんが人を引き付けるやさしさがあります!あなたたちが支えになりマリーゴールドの民を守りなさい!」
「しかし!」
「早く!こうしている間にも魔術結界が破壊されるかもしれないのですよ!?おめおめと命を拾い魔術結界が破壊され住民にも被害が出る!そんなことになれば私だけではなく当主ともども責任を取らされ連座になるかもしれないのです!」
「!!わかりました。」
「あの子に・・・・・パンジーに伝えてください。領主代理としてあなたが民を守りなさいと!・・・・・あと家族としての時間を取れなくてごめんなさい。愛してるわと。」
「必ずお伝えします!」
そういって守備兵と執事たちは南に向かって走り出した。
・・・・ああは言ったが最後の最後まであきらめる気はない!
私は急いで厨房に向かった。
貴族邸の厨房は火災を防ぐため燃えにくい素材でできている。
そのうえ換気のために煙突があり柱としての強度が一番ある。
運が良ければ生き残れるはずだ。
「絶対生き延びる・・・・!」
自分に思い込ませるように呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。