外への道

ミンイチ

第1話

「今日もきれいだな〜」


 人工の星空の下で、少女はそうつぶやく。


 この場所は彼女以外は入ることができない秘密の場所だ。


 彼女は数日に一度、この場所に来て星空を楽しむ。


「本物の星空は、もっときれいなんだろうな」


 彼女は持ってきていた本を広げて星空と見比べる。


 その本には様々な写真が載っており、図鑑とも、絶景集とも見ることができ、今は星空のページが開かれている。


「外の世界はどんな空なんだろう」


「ここよりも綺麗で、毎日違う星空が見られるよ」


 機械のノイズが入った男の声が聞こえた。


 少女はすぐにあたりを見回すが、人の姿はない。


「……誰?」


 少女は怯えた様子で声の主に問いかける。


「誰と言われても、今はほとんど答えられないね。

 説明するとしたら、僕は外から来た虫だ、としか言いようがないよ」


 周りに生えていた背の低い草の中から手のひらより一回りほど小さい、金属製のバッタが出てきた。


「どうやって、どうしてここに?」


 少女は少しは安心したようで、先ほどよりかは穏やかな、しかしまだ警戒した声でバッタに問いかける。


「どうやって来たかなんてのは、とても簡単さ。

 通気口を辿って、あそこから入ってきたんだよ」


 バッタは本物よりも太いであろう触覚を使って、天井にある通気口の方を示している。


 通気口の蓋は外れ、そこからコードも垂れてきている。


 バッタは続ける。


「あと、どうしてここに来たか、だったよね。

 単純なことだよ。

 君を、いや君たちを外の世界に連れて行くためさ」


 少女は『外に連れていく』と聞いた瞬間、目を輝かせてバッタの元に駆け寄る。


「いつ外に連れていってくれるの?どこから外に連れていってくれるの?どんな場所が待っているの?」


 いくつもの質問を矢継ぎ早に少女はバッタに投げかける。


「いつ連れて行けるのかも、連れていく場所もまだわからない。

 外につながる道を見つけられていないからね。

 でも君が手助けしてくれれば、すぐに外に連れていってあげれるはずだよ!」


「じゃあ、何をすればいいの?」


 少女はすぐにでも行動したいらしく、体をそわそわさせている。


「僕もここに来てからそんなに経ってないから、ここがどんな場所で、どこに何があるかもわからないから、とりあえず地図みたいなのをくれないかな?」


「わかった!」


 少女はすぐに走り出そうとする。


「ちょっとまって!

 色々手伝ってもらう前に、君の名前が知りたいんだ。

 教えてくれるかい?」


 少女は立ち止まる。


「名前?

 私はI-3スリーだよ」


「へぇ……ちょっと呼びづらいね。

 ちょっともじってアイシャ、なんてどうかな?」


「アイシャ……うん!私はアイシャだね!」


 少女は顔いっぱいの笑顔でそう答えた後、他の子供達が眠っている場所に帰っていった。

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