イケメンはキライ!…なのにイケメンプロジェクト?!

天海透香

第1話 イケメンアレルギー


北園理子きたぞのりこさん、俺と付き合ってください!」


 隣のクラスの知らない男子に裏庭に呼び出された。

 行ってみたらいきなり頭を下げられ、大きな声で言われる。


「顔を上げてもらえますか?」


 私の言葉に顔をあげる男子。

 あ、ダメだ、イケメン。


「ごめんなさい」


 即却下する。


「……理由を聞かせてもらってもいいですか?」


 男子は食い下がる。

 どうしよう、まさかあなたがイケメンだから、なんて言えないし……。


「今は誰とも付き合うつもりないから……ごめんなさい!」


 私が頭を下げると、男子はすごすごと背中を向けて帰って行った。

 その背中を見送っていると、後ろから声がかかった。


「もったいないなー」

「え?」


 声のした方を振り返る。

 上の方から声がした気がするけど、誰もいない。


「今のヤツ、カッコよかったじゃん」


 突然裏庭にある物置の上から人が飛び降りてきて、私はギョッとした。


「そこで聞いてたの!?」

「あんた達が俺の昼寝の邪魔をしたんだよ。ここ、俺の定番の昼寝場所」


 その人はそう言って、物置の上を見た。

 近くに登りやすそうな木があって、そこから登れそうな位置に物置があり、ちょうど木陰になって気持ち良さそうだ。

 風が吹いて、明るい色の髪がサラッと揺れる。

 黒のスラックスに白い長袖のカッターシャツを膝まで捲り上げている。この季節の男子の合服だ。

 胸につけた校章のバッジは、私と同じ青だった。つまり同じ中学一年生だ。

 そして……茶色がかったアーモンド形の瞳に細くて綺麗な鼻筋、口元はかすかに口角が上を向いていて……つまりかなり綺麗な顔立ちをしている。


 あ、ダメだ、イケメンだ。

 私は無意識に距離を取ろうと一歩下がる。


「なんで断っちゃったの?」

 悪びれずに聞いてくる。

「私のこと何も知らないのに見た目だけで付き合いたいとか、迷惑だから。それに……イケメンだったから」


 つい、正直に言ってしまった。


「はぁ?普通はイケメンだから付き合いたいんじゃないの?それにごめんね?それ言ったらキミも見た目だけで判断してることにならない?」

「私のは、好き嫌いじゃなくてアレルギーなの。給食と一緒。好き嫌いは許されなくても、アレルギーは仕方ないでしょ?イケメン見ると拒絶反応が出ちゃう体質なの」

「ふぅん。でもあんたみたいにお高くとまってると、誰も寄ってこなくなるよ?」


 余計なお世話。

 男子なんてキライ。

 何を見て付き合おうとか言ってくるのかわからない。

 私の何を知ってるの?

 特にイケメンは、大っキライ!

 私が心の中で息巻いていると、その彼が言った。


「……だから、試しに俺と付き合ってみない?後悔させない自信あるよ」


 そう言うと、とっても綺麗に口の端を上げて爽やかに笑った。

 なんでそうなるの?!

 その時、なんとなくその顔に見覚えがあるような気がしたのだけど、早くこの件は忘れようと思って何も考えないことにした。


     ⭐︎


 私はイケメンが嫌い。

 周りにもそう公言してる。

 それは過去のトラウマのせいなのだけど、そのおかげで私は中身なんて関係なくイケメンを

 見ると心にシャッターが降りるのだ。

 まず動悸がやってくる。

 そして冷や汗がでてきて、手足が痺れてくる。

 最後には蕁麻疹が出て、その頃には耐えきれなくてその場を去っている。


    ⭐︎


 帰りながら、幼馴染の小濵幸太おばまこうたに今日のことを報告する。

 幸太とは家が隣同士で、小さい頃から今まで一貫して仲良しだ。


「なんで僕を呼ばなかったの?そういう時は呼んでっていつも言ってるでしょ?」


 幸太は未熟児で生まれたということで昔から体が小さく、身長も私より10センチくらい低い。中1だけど制服を着ていなかったら小学四〜五年生くらいにしか見えない。

 顔も、目が大きくてぱっちりしていて色白で、つまりはとても可愛らしいのだ。

 そんな幸太は、いつも私を守ってくれようとする頼もしい存在だ。


「断るくらいは一人でできるから大丈夫。でもありがと」

「理子は本当にイケメンだめだよね」


 幸太がなぜかちょっと嬉しそうに言う。


「幸太といるのは落ち着くんだけどね……って、別に幸太のことをイケメンじゃないって言ってるわけじゃないよ?」


 私は慌ててフォローする。


「わかってる」


 そう言いながら、幸太は天使みたいにニコッと笑う。

 可愛いなぁ、癒やされるなぁ。

 幸太は優しいし、一緒にいて落ち着く。

 私の中ではほとんど家族だし、可愛い弟みたいな存在だ。


「で、なんて答えたの?」

「もちろん速攻断って、走って逃げた」

「名前は聞かなかったの?」

「興味ないもん」

「そっか、そうだね……」


 幸太は少し考えるように黙った。


「とにかく、困ったことがあったらなんでも僕に言って。約束して」


 真剣に言われて、その勢いに押されるように私はうなずく。

 幸太はすぐにニコッと笑った。

 私のよく知る落ち着く笑顔だった。




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