硝子越しの斜陽

@Kinoko344

斜陽

橙になってなお髪をじりじりと焼き付ける陽光を受けて私は駐車場の見える窓のほうを向き立っていた。なぜ立っているのか。誰かを待っているのである。誰だったか、と言われれば親しい人という認識だけがふわりと反射から浮かび上がるのみである。長いのだか短いのだか分からないほど待って、自分が後ろの風景を知らないことに気づく。後ろには男女のトイレの入り口と、なにかの宣伝ビデオを流すディスプレイを見つけた。駐車場のほうに向き直って、窓に自動ドアがついていることに気づく。と、同時に私はいつからここに居たのだろうかと疑問に思った。この建物から出てみれば変化があるのであろうか。いやいや、私は親しい人を待っている身であるから、そんなことはできない。私は物思いに耽ることにする。さて、なぜ私の視線は自動ドアのボタンより低いのであろうか?私の背が低いからだ。なぜ私の背はこれほどまでに低いのか?途端、肩に重みがのしかかった。ああそうだ、私はランドセルを背負っていたのだ。つまり私は小学生で、だからこの建物から家まで歩いて帰る道をまだ知らないのである。ははぁ、と思わず声が出たとともに、あまりに子供じみた(実際子供なのであるが)声に笑ってしまいそうになる。はてさて、では、「まだ」この建物から家までの道を知らないことを認知した私は誰なんだろうか?今の私は確かに小学生だ。声はひどく幼く、やや体に対して大きなランドセルを背負っていて背も手を伸ばさなければ自動ドアのボタンに届かないほど小さい。つまり私は過去の存在で、私の現実は回想でー

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