逆転NTRの一例

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逆転NTRの一例

「何それ?」


妻の香澄が横から覗き込む。


「同窓会の案内。卒業してから10年記念だってさ」


「今25歳だから・・・10年てことは中学か。時の流れは早いねぇ」


「充実してたからな」


そう、この10年は凄く濃かった。否応なしにイベント盛りだくさんの高校を卒業した後、一人暮らしをしたくて実家からちょっと離れた大学に進学。そこで香澄に出会った。初手ナンパはびっくりしたが、態度は良く見た目も好みだったため仲良くなった。自然と一緒にいることが多くいつの間にか同棲、大学卒業と同時に籍を入れた。

お金が欲しかったので2人とも就職し、最近やっと落ち着いてお金も貯まってきたので子供について考えている。


「そうね。颯太はこれ行くの?」


「そのつもりだけど・・・いい?」


「ええ。だけどあまり飲みすぎないこと。こないだ友達の子に凄い迷惑かけてたでしょ。お酒弱いんだから自重しなね。」


「はーい」


ちょっと引き止めて欲しかったりはした。

お酒の心配は嬉しかったが友達への迷惑の方か。

下げて上げて下げての意地悪。


まぁ、久しぶりにみんなに会えるので楽しみではある。





「送ってくれてありがとうね」


「うん。後でまた迎えに来るから」


最近買った小さめの車の中から香澄が手を振る。

なんだかんだ心配してくれているのが嬉しい。


指定された居酒屋に入ると奥の広間にみんな揃っていた。集まったのは25人ほど。凄く懐かしい顔ぶれである。


「お待たせしました」


「おー久しぶりー」

「これ美味いぞ」

「ここ座って」


僕は最後のようだった。既に飲み始めている人もいる。


「全員揃ったので改めて乾杯!」

「「「「「「かんぱーい」」」」」」


空いていた、誘ってくれた座布団に座る。

隣を見ると中学3年間同じクラスだった女子・・・女性だった。名前花園は美月さん。背が高く、ダウナーな雰囲気の綺麗な、というかかっこいい人。僕の元カノで、1度だけ身を重ねた、初めての人。受験勉強のために別れた。わだかまりもないので、普通に接せる。いい人だしね。


「久しぶり。花園さん。元気にしてた?」


「久しぶり。高坂くん。もちろん。そちらこそ最近どう?」


ジョッキを交わしながら挨拶をする。


「高校上がってから連絡してなかったね。最近はやっと仕事が落ち着いてきた感じだよ。それとね、じゃーん!」


左手の薬指を見せる。今1番の宝物である。


「え。それ「お!高坂お前結婚してたのか!」」


途端に注目を浴びる。おめでとうという言葉に感謝を返していく。そして訂正しなければいけないことが。


「ありがとう。それと今の僕は高坂じゃないよ。市ヶ谷。市ヶ谷颯太だ。」


おおーという言葉と共に酒が注がれ料理が集まってくる。なんだかこそばゆい。


「私からもおめでとう。市ヶ谷くん。結婚したとはね。」


「ありがとう。花園さんにもいい人が見つかるといいね」


「見つかってはいるのだけどね・・・」


最後は喧騒のせいでよく聞こえなかったが、中学の時仲が良かった彼女から祝われるととても嬉しい。


「美月・・・」


「大丈夫。変えない」


「でも・・・」


と、花園さんが隣の人と話し始めた。見覚えがないが花園さんと似ているような・・・失礼。名前が分からない。頭がほわほわしてきたのもある。席を移動しよう。



その後、色んな人と話したあと1時間ほどで元の場所へ帰ってきた。花園さんはその間ずっと同じ場所にいた。そういえば昔から1人や2人といったごく少人数が好きな人だった。今日同窓会に来たのも意外だ。


「おかえりなさい」


「ただいまぁ」


「顔が赤いね。水飲みなよ?」


そう言って水を渡してくれる。彼女は昔からこういった細かい気遣いが一緒にいて心地よい人だった。


心地よい・・・あれ・・・眠気が・・・





とりあえずちゃんと飲んでくれて良かった。

相変わらずいい顔してる。さて、行こうか。


「市ヶ谷くん寝ちゃったみたいだから送るね」


「お、送り狼か?て、いや市ヶ谷結婚してるから良くないんじゃ」


「大丈夫。彼の奥さんとは友達でよろしく頼まれているから。ね。」


真理に目を向ける。


「そう。私と美月と3人で遊んだりもしてる。まぁ送ると言ってもすぐそこに車で迎えに来ているのだけどね。」


「そうか。ちょっと残念だけどまたな。市ヶ谷のやつ、浮かれて飲みすぎたのかな」


「ふふ、そうね。では、また。」



市ヶ谷くん・・・嫌だな、これ。

・・・颯太くんを背負って真理と店を出て、呼んでおいたタクシーに、3人で乗り込む。目的地は言わずもがな。


「美月・・・やっぱり・・・」


「あなたもしたいって言ったじゃない。どちらにせよ、もう片足突っ込んでるわよ。」


「うぅ」


もちろんメインは私だけどね。利用はしてやる。

颯太くんには優しくしようとしたけど、駄目だ。きちんと上書きしないと。





「んぅ、ふぁぁぁ」


「あら、お目覚め?」


目の前に女性の顔が。香澄・・・じゃない!


「うわぁぁぁ!て、花園さん、?」


それに居酒屋で花園さんと一緒に居た彼女もいる。

ここは・・・?と当たりを見回したところで酔いが急に覚める。お洒落な雰囲気にベッド。 焦りが湧き上がってくる。


「え、あ、その!」


「颯太くんが急に眠っちゃったからここに移動した。まだ何もしてないから安心して?」


「あ、ありがとうございま・・・」


まだ?まだって言った?そうだ!香澄が迎えに来るって・・・。時計を見ると迎えが来るまであと1時間半ある。眠っていたのは30分とからしい。ちょっとほっとしつつも財布を取り出す。


「あの、ありがとうございました。その、お金置いておきますね。そ、それじゃ「待ちなさい」えっ」


「ね、これ。」


そう言って見せてきたスマホには僕と花園さんが寝ている写真が何枚も。下着姿で同じ布団で、しかもくっついて寝ている。既婚者が映っていていい写真ではない。咄嗟にもう1人の女性に視線を向けるも目を逸らされた。画角的に共犯者らしい。脅しか。


「・・・どうしろと?」


花園さんに失望と軽蔑の視線を向けながら、分かりきった言葉を待つ。


「とりあえずベッドに戻ろうか。あ、言ってなかったけどこっちは妹の真理。私もこの子も今日このために来たから。この子すごいんだよ?」


「終わったら消してよ、それ」


1時間ちょっと我慢すれば帰れる。そうすればもうこのふたりと会うことなく香澄と暮らせる。

はぁ、来なければよかった。






待ち合わせの時間まであと5分。


「颯太まだかなー」


今日は颯太の中学の同窓会だったらしい。正直行かせたくはなかったが、面倒な女と思われたくなかった。まぁ指輪付けてて送り迎えがいるのに手を出す人がいるとは思えないが。


「でもなー、颯太かっこいいんだもん」


恋愛に興味を持ってこなかった私の初恋が一目惚れからのナンパなんてね。人生何が起こるか分からない。今は颯太の全てが好きで好きで仕方ない。

子ども・・・楽しみだな。


「はぁ、はぁ、お待たせ、香澄」


「おかえり。どうしたの、そんなに汗かいて」


「ちょっと食後の運動をね。」


嫌なことが頭をよぎるが、颯太の笑顔は清々しい。大方、中学の頃を思い出してはしゃいだのだろう。彼は大人びているのに、たまに子供らしくなるのが可愛いのだ。


「そう。それじゃあ乗って。話を聞かせてね。」


「うん。今日はほんとに来て良かったよ。」


「そんなに」


「うん。中学の時の友達とその知り合いと久しぶりに会って相性ピッタリでさ。また遊ぶ約束しちゃった」


楽しそうな颯太を見るとこっちも嬉しい。言いつけ通り飲みすぎてないようだし、冷静に判断した颯太を信じる。

信じているが・・・テンションが高いな。上気した顔も、荒い息もまだなおっていない。酒のせいだと言えばそこまでだが・・・考えすぎか。


「あ、花園さん」


彼の視線の先には、少し遠くて分かりづらいが、背の高いイケメンとその隣に女の子がいる。

ほっと安心する。ただの考えすぎだった。


だが彼の横顔は見たことない表情と目をしていて・・・


考えすぎ・・・だよね?

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