第18話 理科準備室
放課後の理科準備室。
先生から頼まれて、今日授業で使ったビーカーなどを洗い片す仕事をしていた。
私はよく頼まれごとをされる。
断ったことはない。断る理由は無いから・・・。だけど、この仕事は嫌だった。だって、裕翔くんの部活を見に行けないから・・・。
急な事だったから、裕翔くんには何も言ってない。
見に行けない事、メールすればよかった。
スマホは教室の鞄の中だった。
とにかく早く終わらせよう。っで、せめてメールしておこう。
そうこうしていると、
「菜穂!」
ビックッとした。
誰もいないって思っていたから。
ふり返ると心晴だった。
「いつからいたの?」
そう聞くと、心晴はニッコリ笑って、
「ずっと居たよ。菜穂が先生に片付け押し付けられてるところを見かけたからついてきた。まさか、マジで気が付いてなかったの?」
そう言って顔を覗き込む。近い。心晴はいつも近い。
ドキドキが止まらなくなる。
そんな動揺が手元のビーカーを落としてしまい。慌てて拾おうとしたときに手を切ってしまった。
血がポトポト落ちて、
「菜穂、大丈夫?」
そう言って、心晴は左手を掴んで水道で流水をかけてくれた。
痛いより心臓の音が煩くて苦しかった。
だって、心晴は、私の背中から覆いかぶさる様な形で左手の出血を止めるために真剣な顔で・・・。
「大丈夫だから」
そう言って離れようとしたけど、今日の心晴は強引で、
「大丈夫じゃないよ!ちゃんとしなきゃ」
と、真剣。私はとても近い位置で心晴の横顔を見た。奇麗な子。
そうこうしていると
入り口でガチャガチャっと何か音がした。
”?”
えっ?今の音?まさか。
出血を止めるために、心晴は自分のハンカチをキツメに私の手に巻き、入口へ。
引き戸をガチャガチャする。
どうしたの?どういう事?
心晴は振り返り、
「どうしよう・・・外から鍵閉められちゃった」
その時に気が付いた。
そうだ、私、早く終わらせて裕翔くんの部活を見に行こうって思っていたから、この教室の南京錠はひっかけたまま入出した。
学校のルールで、こういった鍵のある部屋に入るときは、出るまで責任者が南京錠を持っていなければならない。
っで、最後、退出するときに、鍵をかけ、出る。
そして、開けるために借りてきた鍵を職員室へ返し、記名して帰る。
なのに私・・・どうしよう。つけたままにしていたから誰かが鍵のかけ忘れだって勘違いして閉めちゃったのかも。出れないじゃない。
私は座り込む。
心晴は外に向かって声をかける。
「すみませーん。中にいますよー」
何度も何度も、だけど、誰も何も返事はない。私達どうなるの?
「この部屋ってさ、この戸しか出入口ないの?」
そんなの知らない。私だってこの部屋入るなんてめったにない。
どうしようどうしよう。窓の方に目をやる。ここは4階。しかも隅っこの教室だから下に助けを呼んでも、偶然そこに誰かが通りかからない限り、気付いてなんてくれない。絶望的だ。
もう日が落ち始めていた。教室も薄暗くなっていた。
心晴はしばらく声を出していたけど、それをやめて、私の横に来て座った。
「今夜はここで一夜を共にするしかないね」
そう言ってニコリと笑った。
そんな言い方しないでよ。こんな状況なのに、またドキドキし始めるじゃない。
私は半泣き状態で心晴から目を逸らした。
出る方法は、偶然に誰かがどうにか気が付いてくれない限り、無い。もうだいたいの部活は終わっている時間。ほとんどの生徒は帰宅している。学校内には、先生たちが数人残っているくらい。
ママごめんなさい。今夜、私は男の人と一夜を共にします。何もない事を願ってください。
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