第10話 傘の中で二人きり
今日はデート。
窓の外に目をやると、大粒の雨がボトボトと降っていた。
昨日から何を着ていくかを少ない私服の中から選びに選んで、決めていたのに、この雨じゃロングスカートのワンピースじゃビショビショになってしまう。
急遽、あまり着慣れないミニスカートに変更。
足を出すのって・・・苦手。
何度も鏡でチェックするけど、やはり服と自分が不釣り合いで・・・恥ずかしい。
そうこうしているうちに時間が来た。
早くいかなきゃ!バスに間に合わない。
「行ってきます」
そう言うと、リビングからママが出てきた。
「菜穂、ちょっと待って」
そう言うと、手に持っていたチョーカーを私の首にかけた。
下駄箱の姿見を二人で見る。
「うん、これでしっくり来た」
そう言ってママは私の肩をポンポンと叩いて
「行ってらっしゃい」
そう言ってにっこり笑った。
何も言わないけど、ママは私をよく見ていて、服装や髪形に悩んでいる姿を見て、少しでもよく見えるようにアクセサリーを用意してくれたんだろう。
ママから背中を押された気がして、少し背筋が伸びた。
まずは、自分に自信を持って今日を過ごそう。
はきなれないミニスカートも、普段とは違う髪型も、デートだから・・・裕翔くんの横を歩くときに恥ずかしくないようにちゃんとしたかったからあんなに悩んで決めたんだ!
ママのチョーカーもあるし、今日の私は違う!
自分に暗示をかけるように、私は傘をさしてバス停に向かった。
駅に着く
待ち合わせ場所にはすでに裕翔くんが待っていた。
「ごめんなさい
待たせたかな?」
そう言って駆け寄る。
裕翔くんはこちらを見て、一瞬、驚いた表情。やっぱ変かな?ミスマッチだったかな?
「何かおかしいかな?」
聞いてしまった・・・”おかしい”なんて思っていても言うわけないのに。
すると、裕翔くんはニッコリ笑顔になって、
「かわいい」
そう言って、頬を赤くして何度か頷いた。
私もその彼の表情に恥ずかしくて下を向くと、彼は右手を出して
「じゃ、行こうか」
そう言って、手をつないだ。
二度目だけど、緊張する。裕翔くんの手。
裕翔くんは大きな紺色の傘を開いた。
私も裕翔くんの手から離れて、自分の傘をさそうとすると、
彼は私の左手をぎゅっと握って、
「傘は一個でいいよ。一緒に入ろう。」
そう言って、裕翔くんは私の傘を取り、私を引き寄せて、裕翔くんの傘の中に入れてくれた。
この前より近い。胸が高鳴る。
ちょっと恋人に見えるかな?
こんな不釣り合いな二人だけど・・・。
今日は雨のおかげで人目が気にならないで済む。大きな傘の中、私たちは、行き交う人の中、二人きりの空間にいる様な安心感の中にいた。
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