第9話 最悪
「今週、裕翔はあの子とデートだってよ」
陽介は、呟きのような小さな声で言った。
知ってる。本人から聞いたから。
「嬉しそうだったね
裕翔ってあんなに子供っぽかったっけ?」
私が目を合わさないでそう言うと、
「いいのか?」
陽介は、いつになく真剣な声で聞く。
「何が?」
面倒くさそうな返事になるのは、図星だから。
「好きなんだろ?」
何よ、分かったような顔なんかして、私の何を知ってるって言うのよ!だったら何なのよ?どうできるのよ!と、私は私の中で陽介への返しの言葉を組み立てては壊しを繰り返していると、
「我慢ばっかしてて辛くない?アイツに彼女できる度に辛くない?」
辛かったら何なのよ?辛かったわよ。辛くなんかなかったわよ!今までは…。
あの子までは。
「何か言えよ」
陽介があまりにしつこいから、言葉がどんどん詰まって、苦しくなる。
「あのさー、あんなに嬉しそうにされたらさ、応援するしかないでしょ?バカじゃないの?だから、数学再テストなのよ!」
そう言いながら、頬に涙がこぼれる感触がして、あわてて横を向いた。
すると、そこには心晴が置物の様に横たわっていた。
「あんた、何でここにいるのよ!」
気が付かなかった。いつからいたんだろう?
陽介も慌てる。
「お前さ、いるなら言えよ!」
心晴は微動だにせず、なにか思いにふけている。
「ねぇ、いつからいたのよ?どっから聞いてたのよ!」
すると、むくりと起き上がり、
「俺が昼寝してたら、二人がズカズカ入ってきて、勝手に話し始めただけだろ?
ここは俺にとっても部室なのですが?」
私は陽介を睨み付ける。陽介は困りながらも、
「心晴、今聞いたことは忘れて…頼む」
頭をクシャクシャっとしながら、頼む。
心晴は首をかしげて、
「何の事?俺は寝てたから何も聞いていないんだけど」
そう言って眠そうな顔でこちらを見た
“良かった~“
私と陽介は顔を見合わせて安堵した。
のは、つかの間、
心晴は退出しようと、鞄を持ちあげ、ドアノブに手を掛けた。
するとピタリと止まり、猫なで声で、
「あのさ、1個だけ教えてほしいんだけど…
どっちの事を忘れてほしいの?
裕翔に新しい彼女がいること?
双葉が裕翔に思いを寄せていること?」
しっかり聞いていた。
しかも、振り返りニンマリと微笑んだ。
陽介は深くため息をつき、
「お前さ…」
と、言葉を失う。
そういうとこあるよね心晴。
人のヨワミを楽しんだりするところ。
私たちがしっかり口止めをする前に、心晴は不適な笑いを浮かべ、部屋を出た。
私は陽介を睨み付け、
「どうすんのよ?」
そういうと、陽介は
「ごめん、この事は一回、俺から心晴に話しとくから!今日はゴメンナ」
そう言って、部室を出た。
最悪。
ここまで隠してきたのに…不安が心を曇らせる。
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