第5話 内緒
今日も菜穂ちゃんが見に来てくれている。
もっと近くで見てほしいけど、彼女は彼女なりに頑張ってあそこにいるのだから、それ以上を求めるのは少し酷なのだろう・・・と、自分に言い聞かせる。
最近では少しだけど距離が近づき始めた気がする。
交際初日
自己紹介から始まった。
「俺の名前は、中野 裕翔
クラスは3-2この席で勉強してます。
特進科ほど賢くないけど、大学進学も考えて勉強してる
っで、部活はダンス部
まぁ、緩い感じで楽しく踊ってるだけだけど、結構こだわりは持ってやってる。」
「私は・・・工藤 菜穂です。
特進科Aクラスです。
成績はいいほうではないけど、本を読むことと勉強が好きです。」
「勉強好きなの?変わってるね」
「そうですか?」
「だって大体の人は、勉強はしなくちゃいけないって感じでやってるけど
”好き”ってことは、進んでやりたいってこと?」
「ん~、進んでやりたいというよりは、進んで知りたいことが多くって、それが勉強の中にあるというか・・・です」
「っていうか、敬語やめない?同級だし」
「はい」
「それもダメ」
「はい」
「また!」
「・・・うん」
「よし!!」
そんな感じでその日はお互いの事を話しながら俺は彼女の家まで送った。
少し遠回りになるけど、その分、いろいろと自然に話が進んだ。
「じゃ、この辺で」
「家の前まで送るよ」
「・・・」
彼女は黙り込み
”嫌”がにじみ出ている
迷惑かな?もう見える位置なんだから、送ってもいいだろうに・・・。
「ここで」
頑なな姿勢に負け、少し離れた場所から手を振る。
彼女が家に入ったのを見届け、俺は自分の家に帰る。
バスの中からさっき交換したばかりのスマホの連絡先にメール。
”今日はありがとう
来てくれて
OKしてくれて
本当にありがとう
これからもっともっと知っていきたいし
知ってほしい
よろしく!
あと、俺の事は裕翔ってよんでね”
それから数時間
彼女からの返信を待っていた
何度もスマホを見ているから
弟が
「にいちゃん・・・変」
と、若干、白い目で見た。
そうだよな、今まで彼女いた時だって、家ではスマホは放置することが多かったもんな。こんなにメール待ったことなかったし。気になってスマホちょくちょく見ることもなかったかも・・・。
メールとかたまに面倒に思ってたし。
電話出たくないときは電源切ってる日もあったもんな・・・。
待つってこんなに時間が長く感じるんだな・・・
けっこうもどかしい・・・
でも、電話していいタイミングとかまだわかんねーし。
迷惑だったら嫌だしな。
待つしかないな。
気が付くと俺はスマホを握って寝落ちしていた。
その日のうちに菜穂ちゃんからの返信は来なかった。
彼女からの返信は翌朝だった。
目が覚めてスマホを見ると、飛び起きベッドの上に正座してスマホを開いた。
”おはようございます
私はなんと呼ばれてもいいです
よろしくおねがいします”
敬語、文章淡泊。
仕方ないよな、初対面の相手に告られて急に距離詰められてるような感覚だろうし・・・。
でも俺は幸せだった。
急がなくてもいい!彼女に俺の事を、俺の思いを伝えられることができたんだから・・・。もう俺たちの間には壁はなく、一緒に同じ空間で呼吸しているのだから。
これからが楽しみしかなかった。
”おはよう
返事ありがとう
俺は菜穂ちゃんって呼ぶね
じゃ、学校でね”
その後直ぐだった、彼女からのメールで
学校では付き合っていることを隠しておきたいと懇願されたのは・・・
あまりに必死でかわいかったから
俺はそれを受け入れたけど
本当は、せっかく同じ学校に通っているのだから、隠すなんてせずに
どこででも恋人をしたかった。
ま、多くを望むと良い結果が待っていないことは、このまだまだ浅い人生の俺にだって分かっているから、菜穂ちゃんのいう事を今のところは聞こうと自分の主張を抑えた。
”あ~早く学校行きたい!”
そんな風に朝から思ったのは、小学校低学年の頃ぶりかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます