第4話 心晴
私と彼が付き合い始めて3か月になろうとしていた。
最初は信じられない気持ちが大きすぎて、声をかけられても、電話してても、メールが来ても、上手く返せないでいて。
”こんな私なんかと一緒にいて楽しいのかな?”
なんて不思議に思っていた。
学校では交際していることは隠していた。
それは、私が頼み込んでの事だった。
だって、ほかの女子に知られたら、袋叩きにされてしまいそうで・・・やはり怖かった。
だから知っているのは、最初に声をかけに来てくれた双葉さんと彼の親友である陽介さんくらいだって思っていた。
彼は
「一緒に登校したり、下校デートしたいんだけどな~。あと、休み時間とかもたまには話とかしたいし・・・別に他にばれてもよくない?」
と言ってくれていたけど、そこだけは譲れなかった。だって怖すぎるもん。
彼が月に一度くらいのペースで告白されたりしている姿を見かける。それは、同級生だけではないし、同じ学校だけでもない。
一度の告白で気が済まないで、何度目かのトライをしている子だって知っているから。
私の様な地味女が彼女になりましたなんて言えいよ。
だけど、少しだけ
彼女としてやっていることがあった。
それは、彼の部活姿をたまに見に行くという事。
彼の部活は正式なものではなく、同好会に近いのだけど、ヒップホップ系のダンスチームを何チームか作って選曲をしたり、振り付けをしたり、踊ったりしている。
イケてる子たちの集まりだ。
私は近くで見るのはおこがましいので、とにかく自然を装って近くはないベンチに座り読書をする振りをして彼が楽しそうにしている姿をチラチラ見ている。
そして、たまに彼がこちらに向けて秘密の合図。それは簡単なもので、頬を膨らまし左手でOKサインを作り自分の頬に二回あてるというものだった。
彼曰く
「”もっと近くに来てほしいけど、そこからでも見てくれて嬉しいよ”のサインだよ。いつかもっと近くに来てね」
と、言う。私はそんな彼のそんな穏やかで優しいかたり口調に顔が熱くなる。
そう言った言葉の繰り返しが、彼を信じていいんだ、彼の彼女なんだっていう自信として積み重なっていく気がしていた。
そんなある日、私の横にある本を避けてヒョイッと軽く座ってきた男子がいた。
彼は確か、裕翔くんと同じ部活の人。
中肉中背、色素が薄いのか?肌が白く眼はオレンジに近かい。マッシュヘアが幼く見せる少しフェミニンで、黙っていたら女の子に間違えられてしまう事だってあるかもしれない。とにかく絵にかいたような美少年だ。
「工藤 菜穂」
フルネームで呼ばれた。
「はい」
先生への返事のように、そういうしか選択肢がなかった。
「どっちがいい?監督か菜穂?」
意味が分からない。
「どういう意味ですか?」
彼はクククッと不敵に笑う。からかってるのかな?
私はムッとする。
「へ~そんな顔もできるんだ~。もっといい子ちゃんかと思った。っで、どっち?」
そう言うとこちらに少し近づいた
顔が近い
耳が熱くなる
やばい
このままじゃ顔も真っ赤になってしまう。
「呼び名だとして、監督と菜穂なら、菜穂だと思います。だって、監督の意味不明ですし。」
目をそらして答えた。
心臓のドクンドクンが全身に響く。
彼は少し上を向いてポカリとした顔で何かを考えて
「監督って分かるでしょう?工藤公康だよ!!めっちゃレジェンドだぜ!アッそっか、もう監督じゃなかったね。ごめんごめん。じゃ、菜穂ね」
そう言って立ち上がり、彼は私の横に本を丁寧に戻して
「俺は井上 心晴(こはる)。知ってる?知らないよね~。周りが見えてそうなタイプじゃないもんね。あっ違うか。周りに関心があるタイプじゃないのかな?
ま、いいや。心晴って呼んでいいよ。じゃ、またね。菜穂。」
そう言って、体育館の方へ走って戻った。
私はその一連の事があっという間で、理解が追い付いていない状況だったけど。彼の背中の向こうに目をやった時、不安げにこちらを見ている裕翔くんがいた。
いつから見ていたんだろう?
変な風に思われたかな?
私がほかの男子と話すなんてめったとないから、嫌だったかな?
私はそのままそこにいると、裕翔くんが集中して練習できなさそうだったので、本をまとめて帰ることにした。
いや、本当は自分自身、裕翔くん以外の男子と関わったことが後ろめたかったのかもしれない。
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