命ってのは対等なんだ

TK

命ってのは対等なんだ

「いけぇ!頑張れ!」


スマホの中で上げ馬をする群衆は、強烈な活気を醸し出している。

スマホの所有者である男は、見下しの感情で彼らを見つめていた。


「ったく、馬鹿じゃないのかコイツらは?馬の足は繊細なんだぞ?一度でも骨折したら、安楽死をさせるしかないほど、デリケートなんだ。そんなか弱い馬にこんな過酷なことをさせやがって。なーにが神事だよ。時代錯誤の典型例だ。ただの動物虐待じゃねーか。こんなもん、美しい女を生贄にして、村を守ってるつもりになった原始人どもとなんら変わりはしねえぞ。まあ一番悪いのは群衆だ。馬鹿みたいに騒ぎ立てるから、動物虐待が正当化されるんだ。馬を危険な目に合わせてるのは明白なんだから、そこにお前らはストップをかけなきゃダメだろ。なに一緒に騒いでんだか…」


男が文句を垂れていると、レース開始を知らせるファンファーレが鳴った。


「この障害レースに出走するタナニアゲルマンは、今日がメイチのはずだ。頼むぞ。飛越はめっちゃ危険な行為だけど、これがレースを面白くするんだよなぁ。あっ、スタートした!いけぇ!頑張れ!」


***


テレビの中で障害レースを観戦する群衆は、強烈な活気を醸し出している。

テレビの所有者である女は、見下しの感情で彼らを見つめていた。


「一体、なんなのこれ?暇だからテレビをつけてみたら、とんでもない映像が流れてビックリよ。人を乗せたお馬さんを、走らせながらジャンプさせるなんて。どう考えても危ないじゃない。たしかに、レースとしては面白いかもしれない。でも、お馬さんの気持ちを全く考えてないわ。お馬さんはもっと平和に安全に暮らしたいはずよ。人間のエゴで危険な目に合わせるなんて、許されるわけない!こんな身勝手な行為、即止めさせるべきよ」


女が文句を垂れていると、カメラマンの訪れを知らせるチャイムが鳴った。


「ようこそいらっしゃいました。今日は私のセレブな生活を、存分に見せてあげますね。私が愛用しているこのバッグは、クロコダイルの皮を使っています。リビングに敷いてあるこの絨毯は、なんと虎の革を使ってるの。この鹿の剥製、立派でカッコいいでしょ。あっ、この象牙もカッコよくてお気に入りね。今日の夜ご飯は、私の大好物のフォアグラ。あと、ツバメの巣のスープね」


***


テレビの中で豪勢な生活を披露する女は、上品かつ下品な活気を醸し出している。

テレビの所有者である男は、見下しの感情で女を見つめていた。


「動物に親でも殺されたんか?命を弄びやがって。いいか、命ってのは対等なんだ。エゴを満たすために命を刈り取るのは、命に対する冒涜だ。もちろん、生きていくために命を頂くことはある。だけど、フォアグラなんて必要ないし、象牙なんてもっと必要ない。命は一度失われたら、二度と戻らない尊いものなんだ。だから俺たちは、命をもっと慎重に扱って、リスペクトの気持ちで向き合わなきゃいけないんだ。人間のエゴで、命を一方的に刈り取るなんて、絶対にやっちゃダメなんだ!あっ、ゴキブリだ・・・」


男が文句を垂れていると、部屋に1匹のゴキブリが出てきた。


男はそのゴキブリを、スリッパで潰した。

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命ってのは対等なんだ TK @tk20220924

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