告白ノォト

内田ユライ


 あの自動販売機を見つけたのは、たまたまだった。

 深夜残業で直通の電車を逃してしまった。なんとか間に合った最終電車は、最寄り駅のふたつ手前が終着だった。タクシーもつかまらず、しかたなく徒歩で帰ることにした。


 夏本番を迎え、夜間になってだいぶ気温が下がったとはいえ、歩き続けるとさすがに汗がしたたり落ちる。背広の上着を脱ぐと、いくらかましになった。


 住宅地を抜け、山ひとつを超える途中、ひとけの無い場所を通りかかった。運動不足で重い身体を運ぶうちに、ひどく息が切れる。

 車一台が通れるくらいの細い道が、左右にくねりながら続いている。周囲には鬱蒼とした雑草が伸び、合間に高い木々が茂る。


 途中百メートルほどの距離に街灯がなく、闇が落ちて進路が途切れているように見える。その途中に自動販売機が設置され、真っ暗な道に煌々こうこうと光を放っていた。

 少々、周囲の雰囲気を薄気味悪く感じていたので、人工物の明るさはとても心強く思えた。


 だいぶ喉も渇いていた。腹も減っている。昼と夜の二食を抜いているので血糖値が下がっているらしく、さすがにふらふらする。

 なにか甘い飲み物がほしいと考えて、近づいたのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る